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JRIレビュー Vol.1, No.73

アメリカ経済見通し

2019年12月24日 井上肇


アメリカ経済は、2018年央をピークに減速しているものの、これまで景気拡大が途切れずに続いている。部門別にみると、企業部門が景気の足を引っ張る一方で、家計部門が景気を下支えしている。この結果、今回の景気拡大局面は2019年7月に戦後最長を更新し、11年目に入っている。今後の展開は、トランプ政権・議会の政策運営と、FRBの金融政策運営に大きく左右される公算が大きい。

まず、通商政策についてみると、トランプ政権は2018年から強硬な対中政策を続けてきたものの、少なくとも2020年11月の大統領選挙までは姿勢を軟化させる見通しである。再選を目指すトランプ大統領は、中国との貿易戦争の激化が景気悪化や株安をもたらし、支持率の低下を招く事態を回避するように動くとみられる。そのため、足許の製造業を中心とする企業部門の弱さが雇用削減などを通じて家計部門に波及する事態には至らない見込みである。

次に、財政政策に目を向けると、2019年夏に超党派予算法が成立したことで、当面は柔軟な財政支出の拡大が可能となり、景気を下支えする見込みである。ただし、党派対立の激化や財政状況の悪化などにより、大規模な追加の景気刺激策は見込み難い。

最後に、金融政策についてみると、FRB(連邦準備制度理事会)による予防的な利下げの効果が今後徐々に顕在化するとみられる。景気失速が回避されるため、さらなる利下げは実施されないと予想している。一方で、インフレ期待が低迷していることに加え、貿易戦争再燃による景気下振れリスクが残ることなどから、利上げ再開のハードルは高い。そのため、FRBは物価上振れよりも景気下振れの防止に重点を置いた政策運営を続ける公算が大きい。

以上を踏まえ、景気の先行きを展望すると、トランプ大統領が景気に配慮した政策運営を行うと予想されるほか、緩和的な金融環境が景気の下支えとなり、2020年後半にかけて成長ペースは小幅ながら持ち直す見通しである。ただし、米中覇権争いの長期化が予想されるため、景気の力強い拡大は見込み難い。結果として、予測期間を通じて成長ペースは2%程度とみられる潜在成長率並みにとどまると予想している。

以上のメインシナリオに対して、米中貿易戦争の展開次第で景気が上下双方向に振れるリスクがある。また、緩和的な金融環境は、短期的には景気下振れリスクの抑制に寄与するものの、各種マーケットにおけるリスクテイクの動きを促すことでバブルを形成する恐れがあるため、中期的には景気下振れ要因となりうる。
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