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全世代型社会保障の本格構築に向けて-包括的改革のための3つの条件

2019年12月04日 山田久


 政府は今年9月に「全世代型社会保障検討会議」を設置し、年内の中間報告の取りまとめに向けて検討を行っている。年齢に関わらず働くことができる環境を整えることを重視し、年金・医療・労働・介護など社会保障全般にわたる持続可能な改革を図るとの方針が示されており、これまでに挙げられている施策は個別にみれば概ね妥当なものといえる。とりわけ、今回は狭義の社会保障分野のほかに雇用・労働分野の施策、中でも70歳までの就業機会の確保を掲げていることは積極的な評価ができる。

 もっとも、現時点で議論の俎上に載っている高齢者雇用促進策の内容をみると、既に着手していることのほか、さしあたりできることを列挙した印象であり、根本的な対応策を包括的に講じようとしているのかは疑問が残る。70歳まで働き続けることを当たり前にするには、変化に適応して、誰もが主体的にキャリアを開発していける状況を作り出す必要がある。本質的な問題は「キャリア自律(主体的なキャリア形成)」を可能にする環境を、日本の事情に合わせて包括的に整備することである。それには、日本型と欧米型の「ハイブリッド・システム」というビジョンを前提に、同じ職種の人々が企業を跨いで活発な交流が行われる仕掛けづくりや、産業界の積極的な関与によって実践的な職業能力が効率的に身に着く人材育成システムの整備を進めることが求められる。

加えて、高齢化・長寿化が急速な勢いで進むわが国にとって、20年・30年先を見通して持続可能かつ過不足なく機能を果たす社会保障制度の全体像(トータルビジョン)を提示することが求められている。持続可能性に着目すれば、負担の問題を正面から議論することは避けて通れず、その意味では「全世代型社会保障・税の一体改革」でなければならないが、この点で検討会議の議論は物足りない。端的にいえば、更なる消費増税の議論を避けて通ることはできないであろうし、制度の仕組みにまで踏み込んだ見直しも不可欠である。

増税や仕組みの見直しの必要性は、これまでも多方面から繰り返し主張されてきたことであり、有効な対策を講じるには、なぜそれが実行できてこなかったかを踏まえる必要がある。海外を見渡すと、社会保障改革を上手く進めてきた国として北欧諸国とりわけスウェーデンが指摘でき、同国で注目すべきは個別具体的な政策内容よりも、全体としてどのような仕組み・メカニズム・手法に基づいて社会保障制度が設計され、状況変化に応じて改革が行われてきたかについてである。そのポイントは、①経済成長を追求し、社会保障財源の最大の原資である賃金の継続的な上昇を実現してきたこと、②負担と給付の対応関係が明確化な制度を構築してきたこと、③異なる立場の人々の間でのコンセンサス作りが行われてきたこと、の3点に整理できる。

スウェーデンの経験に学べば、わが国においても、①持続的な賃上げの仕組みを並行して進めること、②負担と給付を関係づける観点からの施策を盛り込むこと、③国全体でのコンセンサスの形成に向けた取り組むを行うこと、が必要である。この点を踏まえ、メンバーを追加して「全世代型社会保障検討会議」を「全世代型社会保障・税の一体改革検討会議」へと衣替えし、期間も延長して、多角的な観点かつ長期的視点から議論を行うべきではないか。そのうえで、党派を超えた合意を得ることで、政権や内閣が代わっても改革が継続される仕組みを構築すべきであろう。

全世代型社会保障の本格構築に向けて-包括的改革のための3つの条件(PDF:670KB)
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