中国はベトナムの対内直接投資で初めて首位となった。米中貿易摩擦に伴うサプライチェーン再編の動きは、日本、台湾、韓国企業の問題と捉えられがちであるが、関税引き上げという事業環境の悪化に最も敏感に反応しているのは中国企業である。制裁関税「第4弾」の発動により、生産拠点をベトナムに移す動きは益々強まると見込まれる。
ベトナムは対米輸出と対中輸入がともに好調で、「中国企業の投資増加」→「対中輸入の増加」→「対米輸出の増加」という構図が最も鮮明に現れている国といえる。ただし、品目別動向をみると、生産拠点の移転が本格化するのはこれからといえる。
中国はマレーシア、インドネシア、タイでも直接投資を増やし、主要投資国に浮上した。一方、韓国、台湾、日本の対外直接投資をみると、中国のようなASEANシフトは起きていない。この背景には、人件費の高騰を受け、米中貿易摩擦が起こるより前に生産拠点の分散化が進められてきたことがある。
アメリカが「第4弾」発動のスケジュールを明確にしたことにより、台湾と韓国の対ASEANないしインド投資は増加すると見込まれる。サプライチェーン再編の主役となるのは電気・電子機器産業である。一方、わが国はASEANに中国に匹敵する産業集積を有しているため、生産体制の見直しによって制裁関税を回避する余地がある。
米中貿易摩擦は世界経済にマイナスの影響を与えるが、国別にみればその影響は多様である。中国を代替し得る国・地域では、対米輸出が大幅に増える可能性がある。アメリカの輸入統計からは、ベトナムは通信機器と家具・寝具、台湾は事務機器・自動データ処理器の対米輸出を増やし、それら品目の輸入に占める中国の割合は大幅に低下した。
中国の生産を代替する国の対米輸出が対中輸入とともに増えるのであれば、貿易摩擦のマイナスの影響は中国の対米輸出の減少幅で示されるほど大きくならない可能性がある。ただし、こうした傾向がみられるのは今のところ台湾とベトナムに限られる。
米中両国の貿易統計からは、①「第4弾」の発動に伴いサプライチェーン再編が加速すること、②中国の対米輸出を担ってきた産業と同じ産業を持つ国が代替生産地として有利であること、③中国の対米輸出の規模が非常に大きいため、サプライチェーンの再編は一朝一夕には進まないことが分かる。
・米中貿易摩擦はアジアのサプライチェーンをどう変化させるか(PDF:1762KB)
