インドでは、中央政府が中心となって、個人認証、電子署名、携帯電話を使った決済など、個人識別番号制度Aadhaarをベースとする様々な機能を用意してきた。官民の多様な主体がそれらを活用して利便性の高いデジタル・サービスを開発することで、インド社会全体のデジタル化を進展させることが企図されている。もっとも、そのためにはユーザーである各主体にそれらを積極的に活用してもらう必要がある。その役割を担うのがIndia Stackである。
India Stackでは、Aadhaarをベースとする諸機能のオープンAPIが1つにまとめて提示されている。それらは目的別に、①非対面化、②ペーパーレス化、③キャッシュレス化、④個人の同意のもとでのデータ共有、という4つのレイヤーに分類されている。ユーザーは個人にかかわるデジタル・サービスを開発したいのであればIndia Stackにアクセスすればよく、また、開発したいサービスの中身に応じてレイヤー内のAPIを自由に選択したり組み合わせたりすることが出来る。
India Stackとその背後にあるAadhaarは、最初から完璧な制度として構築されたわけではない。プライバシー侵害への懸念をはじめ様々な批判に晒されるなかで、運営を続けながら改善が繰り返されてきた。
India Stackが先進国も含む海外から注目されるのは、主に以下の3点においてである。
仕組みそのもの。Aadhaarをベースとする諸機能が積極的に活用されるためのユーザー・フレンドリーな仕組みとしてIndia Stackが編み出された。
民間のイノベーション創出力を引き出そうとする姿勢。India Stackはとくに民間企業による活用を念頭に置いている。それが社会全体のデジタル化につながると期待されるためである。
提供される諸機能を公共財と捉える考え方。公共財だからこそ、India Stackの整備は中央政府が中心的に担っている。また、公共財として諸機能を開放することで、パーソナルデータが個人の同意のもと広く共有され、逆に特定企業による独占を防止するという狙いもある。
日本でAadhharに相当するのがマイナンバー制度である。マイナンバー制度が現在の低調な利用から脱却し、デジタル化推進の基盤として機能するためには、India Stackの根底にあるユーザー目線を尊重する姿勢や、走りながら改善していくという姿勢を取り入れるべきであろう。
・India Stack:インドのデジタル化促進策にみる日本のマイナンバー制度への示唆(PDF:946KB)
