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重要性が高まるTCFD対応
~シナリオ分析におけるハードルと実践のコツ~

2019年10月17日 段野孝一郎早矢仕廉太郎


1. TCFDで提言されたシナリオ分析の重要性
 TCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)は、企業が気候変動のリスク・機会を認識し経営戦略に反映させること、そして将来的な財務状況への影響可能性を適切に情報開示することを推進するため、FSB(金融安定理事会)が設立した組織である。既に海外では、大手企業を中心に、気候変動リスクの分析と将来の財務影響を開示する動きが定着化しつつあるが、TCFDの提言を踏まえ、国内においても気候変動を踏まえたシナリオ分析を行う機運が高まってきた。

 TCFDでは、将来の気候変動リスクが自社にどのような影響を与え得るかについて「シナリオ分析」と呼ばれる手法で分析することを推奨している。経済産業省や環境省も、ガイダンスの発行や、コンソーシアムの設立を通じて、TCFD提言に基づくシナリオ分析の実施を後押ししている。

 一方で、企業サイドからは、どのように分析を進めてゆけばよいのか分からないとの声も多く聞こえる。本稿では、企業がシナリオ分析を進めていく上で、つまずきやすいポイントを踏まえながら、シナリオ分析を具体的に実践するコツを紹介したい。

2. 何のためのシナリオ分析なのか?
 シナリオ分析を行う際に、担当者が困惑する点は、「そもそも何のためにシナリオを作成するのか?」、「どのようなシナリオを想定すればよいのか?」ということものであろう。TCFD提言では、2℃以下のシナリオを含む複数のシナリオを使用することが推奨されている。これは、気候変動が企業活動に与える影響が不確かな中、確定的な一つのシナリオだけを想定し、対策を検討するだけでは不十分だからである。

 すなわち、シナリオ分析では、自社が実現する可能性が高いと考える一つのシナリオを描くのではなく、これまで想定していなかったような世界についてもシナリオとして設定することが重要である。このように設定したシナリオのいずれにおいても、自社が適切に対応できることを示すことが、自社の経営戦略が気候変動に対してレジリエントであることを示すことにつながるのである。

 従って、シナリオを検討するうえでは、これまで企業が所属する業界では考えられなかったような想定外のシナリオなども考慮する必要があり、そのためには視座・視野を高く・広く持って外部環境の動向を分析する必要がある。

3. シナリオ分析の始め方-着眼大局、着手小局
 TCFD提言では、気候変動関連の情報開示に向けて、経営陣をはじめとする社内全体と連携しながら議論していくことが重要であるとされている。一方、取り組みの全容が見えない中で社内全体に関係者を作ってしまうと、「シナリオ分析の目的は何か?」、「各部署で策定しているシナリオと何が違うのか?」などの質問対応に追われ、シナリオ分析の本筋の議論までたどり着かない可能性も多分にある。

 こうした状況を踏まえ、我々がコンサルティングを提案する際は、初フェーズは担当者の理解を深めることを重視したカリキュラムを提案する場合が多い。シナリオ分析とは何か、どのように進めればよいかを、まずは担当部署を中心に小さく議論し進めることで、理解を深めながらスムーズに意思決定を進めることができるという利点がある。また、担当者の理解が深まれば、次フェーズ以降の社内展開も容易になり、社内においてもスムーズかつ建設的な議論が可能となる。

 さらに、シナリオ分析を開始する際の留意点として、コンサルタントに任せきりにしないことも重要である。シナリオの設定や各種のデータ整理など、コンサルタントに依頼する方がスムーズなことも多いことは事実である。しかし、将来的に全社に展開する時のことを考えると、担当者自らが考え、シナリオを導き出し、対策を考えることは、担当者自身のシナリオ分析に対する理解度を深めるだけでなく、他部署に対してシナリオの納得度を伝えていくうえでも、非常に有効である。

4. 成長機会の獲得-受身的対応から積極的対応へ
 気候変動への関心が日々強まる中、気候変動の影響を考慮した財務情報開示の重要性が今後高まることが予想される。しかし、TFCDの対応は、単なる投資家対応といった側面のみならず、自社の持続的な成長機会を考察し、さらなる成長領域を特定するうえでも有効である。TCFDの要請に受身的に対応するのではなく、むしろ積極的に取り組んでいくことで、本邦企業も新たな成長機会を掴み得るのではないだろうか。
以上


※記事は執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
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