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【シリーズ:地域発イノベーションを考える】
漁業者のシラスウナギ管理強化によるブランド価値訴求・バリューチェーン強化

2019年10月11日 古賀啓一


 商品の付加価値を高めるため、商品を消費することに伴うネガティブな側面に対応していることを訴求するのはオーソドックスな手法の一つである。例えば、天然資源ではなく古紙や持続可能な林業によって生産された木材を原料とした紙、水質悪化を抑制する環境にやさしい洗剤、CO2の排出量削減につながる省エネ家電など、これまでも多様な事例が存在している。そして、SDGs(持続可能な開発目標)への対応に注目が集まる昨今においては、社会的意識が高く、企業倫理や環境問題に敏感なミレニアル世代以降に対する、新たな訴求ポイントに注目が集まっている。

 こうした付加価値訴求は、農業・林業・水産業などの一次産業においても有効である。
 過去、日本に輸入されていた「ヨーロッパウナギ」は、2007年にワシントン条約附属書掲載が決定したことで貿易取引が制限されており、このままでは「ニホンウナギ」も同様の規制を受け、養殖のための稚魚であるシラスウナギが輸入できなくなる事態も危惧される。しかも、このシラスウナギの違法漁獲が、現状では十分に取り締まられていないとの報道が目立ち始めた。国内でのシラスウナギの採捕についても、平成30年の水産庁が算出した国内採捕量と報告数量の間には3.7トンの差があり、国内採捕量の40%以上が十分に管理できていないことが明らかになっている。わが国においても「ニホンウナギ」は、2013年から環境省レッドリストの絶滅危惧種に指定されており、土用の丑の日が近づくと、消費量の増加とともに資源量の減少が注目されるようになった。
 こうしたウナギを取り巻く課題を受け、ウナギ養殖産地の一つである浜名湖では、地元の養殖事業者と静岡県、大手小売りのイオンが協力することで、原料となるシラスウナギが違法でないことを担保した、「静岡県浜名湖産うなぎ蒲焼」をイオンの新商品として販売を開始した。ウナギの絶滅の危機という社会課題に対応する商品を開発し、ブランド価値を付与したわけである。

 この取り組みは、一次産業だけでなくバリューチェーン全体の強化につながっている点にも注目すべきである。これまでも行われてきた水産資源の維持のための種苗の育成や放流のみならず、消費者の手に届くまでの透明性を高める取り組みを実現するため、バリューチェーンの上流から下流まで多くのステークホルダーがブランド化の過程で協力・連携している。シラスウナギの流通の透明化を図ることは、川上にとっては安定した付加価値の高い販路の確保だけでなく管理能力の強化につながり、川下にとってはウナギを取り巻く規制等が一層強化された際の安全な取引先の確保につながることが期待される。

 ウナギに限らず、水産資源の枯渇は大きな社会問題として認知され始めている。7月に開催された「北太平洋漁業委員会」では公海のサンマの漁獲枠について初めて国際的な数量制限が実現した。農業・林業についても、生物多様性の減少に大きな影響を与えてきたことが改めて国際条約レベルで報告されたところである。こうした社会的課題は、一次産業にとってリスクである一方で、個別の企業にとっては先行的に対応を進めることでブランド価値向上やバリューチェーン強化のチャンスにもなり得る。

※記事は執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
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