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非化石証書導入から導入2年を迎えて-今後の展望と課題

2019年10月10日 段野孝一郎


 2015年7月に閣議決定された長期エネルギー需給見通しでは、2030年における非化石電源比率目標として、44%という目標が定められた(原子力:20%+再生可能エネルギー:24%)。

図表-1 長期エネルギー需給見通しにおける非化石電源比率目標


出所:経済産業省「長期エネルギー需給見通し」(2015年7月)を基に日本総研作成


 この目標を実現するために、関連する制度として、エネルギー供給高度化法の告示がなされた(エネルギー供給高度化法および経済産業省告示第112号)。本告示では、各電気事業者に対して、2030年度において供給する非化石電源に係る電力量の比率を44%以上とすることが定められた(なお、目標達成に当たっては、各電気事業者が共同で目標を達成することを妨げないこととされた)。

図表-2 エネルギー供給高度化法における非化石電源の位置づけ


出所:エネルギー供給高度化法および経済産業省告示第112号を基に日本総研作成


 しかし一方で、現実には、非化石電源の大半を占める再生可能エネルギー電源が、FIT制度によって一般送配電事業者へ売電されており、FIT電源が持つ非化石価値が一般送配電事業者を通じて旧一般電気事業者(東京電力、関西電力等)に帰属する形となっていたため、旧一般電気事業者以外の小売電気事業者(いわゆる「新電力」)が、非化石電源を調達することは困難であった。

 係る状況を考慮して設立された市場が「非化石価値取引市場」であり、一般送配電事業者が買い取ったFIT電気から、電気としての価値(kWh価値)と、非化石価値(CO2フリーの価値)を分離し、非化石価値だけを証書として取引することを可能としたものである。

 現在、環境価値(非化石価値、CO2フリー価値)を取引する手段としては、グリーン電力証書、Jクレジット、非化石証書が存在する。グリーン電力証書とJクレジットが需要家の排出するCO2排出量の削減に直接的に参入できる手段として位置づけられているのに対し、非化石証書は小売電気事業者が自ら供給する電力のCO2排出係数削減(CO2排出量削減)のために用いられる手段であり、需要家は小売電気事業者がCO2排出係数を低減した電力を調達して自らの事業活動に供することで、間接的に自社のCO2排出量を低減できるという点に違いがある。

図表-3 「環境価値」の取引手段


出所:日本総研作成


 非化石価値取引市場に関しては、電力事業関連、温対法および高度化法関連、FIT法関連との制度整合性を担保するため、図表-4に示すような課題があるとされた。その中でも特に課題なのは「非化石エネルギー利用に関する電気事業者の判断基準における中間評価の基準」であろう。2030年度における非化石電源比率目標44%に対して、2020年度、2025年度といった中間時点での目標およびそれに対するペナルティがなければ、極論すれば、2030年度だけ取引が活性化するといった事態も想定され得る。

図表-4 非化石価値取引市場に関する検討課題


出所:資源エネルギー庁「非化石価値取引市場について」を基に日本総研作成


 事実、2018年度から非化石証書のオークションが行われているが、2018年度の取引は事前の期待よりも低調であったと言える。しかし、2019年度の第1回オークションでは、約定量が約1.1億kWh(前回比30倍)となり、約定量が初めて1億kWhを超えた。

図表-5 非化石価値取引市場における約定結果


出所:JEPXウェブサイトを基に日本総研作成


 この背景には、ESG/SDGsに配慮した企業経営に対する社会的要請が強くなり、低炭素な電力を求める需要家の声に応え、小売電気事業者各社が自主的に非化石証書の調達を拡大したということが考えられる。

 政府は現在、最終目標となる非化石比率44%達成に向けて、毎年度の目標を定めて非化石比率を漸増させていくことを計画している。具体的には、2030年度までのフェーズを3つのフェーズ(第1フェーズ:2020~2022年度、第2・第3フェーズ:2023~2030年度までの期間を2分割して設定予定)に分け、実際の証書流通量を考慮しつつ、意欲的な目標値を設定することを検討しているところである。

 FIT電源の開発コストは年々、低下しており、発電コストも低下してきている。太陽光発電の入札では、初めて調達価格が10円/kWh台になるなど、グリッドパリティが実現しつつあり、今後はFIT制度に依存しない再エネ電源の開発も進むと想定されるが、足元では、非化石電源の太宗はいまだFIT電源である。非化石価値取引市場は、供給電力のCO2排出係数低減を企図する小売電気事業者にとって、今後はますます重要な市場となるだろう。
以上


※記事は執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
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