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アジア・マンスリー 2019年10月号

東南アジアで活発化するキャッシュレス決済

2019年09月27日 岩崎薫里


東南アジアでは、スマートフォンの普及に後押しされて、既存の金融機関をはじめ異業種も含むさまざまなプレイヤーが、モバイル決済を中心とするキャッシュレス決済サービスを相次いで提供し始めている。

東南アジアのキャッシュレス決済の特徴
近年、東南アジアでは、スマートフォンを利用したモバイル決済を中心に、キャッシュレス決済サービスが続々と提供されている。この背景には、スマートフォンが急速に普及する一方で、賃金を現金で受け取るなど、現金社会の国が多く、キャッシュレス決済への移行余地が大きいことが挙げられる。提供されているのは、これまで決済自体に不自由を強いられていた人でも簡単に利用可能なサービスである。

東南アジアで登場しているキャッシュレス決済サービスにはどのようなものがあるのか。先進国と変わらないサービスが多くみられるものの、その一方で、先進国では一般的でないサービスも目を引く。そうした独自サービスの特徴として、以下の3点が指摘できる。

第1に、スマートフォンの普及率の高さを映じて、モバイル決済サービスが多い。逆の見方をすれば、スマートフォンが普及したからこそ、それを活用したさまざまなスキームの決済が可能となった。

第2に、これまで金融機関との取引が難しかった層、具体的には銀行口座の非保有者、銀行口座は保有していても支店やATMが近隣にない人、クレジットカードやデビットカードの非保有者、などであっても利用できる仕組みとなっている。利用者がモバイル決済用の原資を確保するのに、代理店で現金を手渡してアプリ内に入金してもらう方法が典型例である。代理店は専属の場合もあるが、地元の食料品店や雑貨店、コンビニエンスストアなどが兼ねることも多い。

第3に、使われている技術は必ずしも最先端のものではない。提供される決済サービスのなかには、ブロックチェーンといった先端技術を利用したものも散見される。しかしその一方で、最近、急速に拡大しているQRコード決済におけるQRコードは、四半世紀前に日本で開発された比較的ローテクな技術である。使い勝手がよくコストも低いサービスであれば、ハイテクかローテクかは関係ないといえよう。

キャッシュレス決済拡大の二つの流れ
東南アジアと一口にいっても、決済の置かれた状況は国毎に異なり、それに対応してキャッシュレス決済の拡大パターンも異なる。大まかな分類ではあるが、東南アジア諸国は、決済の発展段階に応じて、①シンガポール、マレーシア、タイ、②その他の諸国、の二つに分けることができる。

シンガポール、マレーシア、タイの3カ国では、決済を巡る課題がその他の東南アジア諸国と比較して少ない。このため、キャッシュレス決済の利用拡大によって課題が劇的に解消される面は相対的に小さい。その一方で、この3カ国の政府はキャッシュレス決済の普及に向けて積極的に取り組んでおり、この面からの追い風が見込める。これらの国では、キャッシュレス決済が及んでいなかった隙間を埋める形で、全体の利用がさらに進むという姿が展望できる。

その際に利用されるデバイスは、プラスチックカードとスマートフォンの併用となる公算が大きい。これは、プラスチックカードの利用が比較的進んでいるうえ、銀行口座保有率が相対的に高く、デビットカードを兼ねたATMカードがすでに消費者の手元に行き渡っている、などの理由による。

一方、この3カ国以外の東南アジア諸国では、決済を巡る課題が深刻であることから、課題解決型サービスに牽引されてキャッシュレス決済が拡大することが展望できる。政府がキャッシュレス決済の推進を謳っている国もあるものの、前述の3カ国ほど本格的な取り組みに至っていない点を踏まえると、キャッシュレス決済の拡大は民間主導になると予想される。
これらの諸国では、現金決済からカード決済を経ずにモバイル決済へ一足飛びに移行する可能性がある。銀行口座を保有していなくてもスマートフォンを保有している人が圧倒的に多い一方で、プラスチックカードが普及しておらず、決済端末をはじめカード・インフラも整っていないためである。そうであれば、キャッシュレス決済のデバイスとして当初からスマートフォンが利用されるのは自然な流れと判断される。

キャッシュレス決済は着実に進展
東南アジア諸国がキャッシュレス決済の先進国に一挙に躍り出るか否かは現時点で見通すことはできない。それでも、シンガポール、マレーシア、タイの3カ国では民間の活動と政府による推進策、それ以外の国では決済を巡る課題解消のニーズに後押しされて、キャッシュレス決済の利用は着実に進むとみてよいであろう。

近年、東南アジアのキャッシュレス決済市場には中国勢が参入し、存在感を高めている。その一方で地場勢も、金融機関から異業種まで、また、既存企業から新興のスタートアップまで、多種多様なプレイヤーが積極的に事業を展開している。そうしたなか、地場勢であれ海外勢であれ、決済を日常生活のなかでスムーズに、余計な手間なく行うことを可能にするプレイヤーが、東南アジアのキャッシュレス決済市場で優位に立つことになろう。
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