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アジア・マンスリー 2019年7月号

金融システム不安の回避に動く中国人民銀行

2019年06月27日 関辰一


中国では20年ぶりの銀行接収が行われた。性急なデレバレッジ政策が、地方経済に想定以上
のダメージを与えたため、銀行破綻のリスクが高まりつつある。

■金融監督当局が包商銀行を接収
中国の金融監督当局は5月24日、20年ぶりに銀行を接収した。中国人民銀行と中国銀行保険監督管理委員会(銀保監会)は、2019年5月24日から2020年5月23日まで内モンゴル自治区を本拠地とする包商銀行を管理下に置くと発表した。そのうえで、同行の経営を5大銀行の一つである建設銀行に委託する。包商銀行は民間企業や個人向け融資が多い民間銀行である。2016年末の総資産は4,316億元、融資残高は1,565億元であり、中堅銀行という位置付けである。同行は、中国の分類では株式制商業銀行にあたり、その総資産は同分類の中では少ない方であるが、全銀行の平均総資産を上回っている。

今回の措置のねらいは、預金者や債権者の保護、および金融システム不安の回避である。中国人民銀行、銀保監会と預金保険基金が包商銀行の個人預金の元利を全額保証するとともに、預金受け入れと引き出し業務を通常通り行うという。個人向け銀行理財商品の元利も100%保証する。法人の預金や他の債権も、5,000万元以下の場合は元利を全額保証、5,000万元超の場合は金融監督当局と債権者が協議したうえで最低80%を保証する。

中国で銀行接収は長らく行われておらず、1998年の海南発展銀行以来21年ぶりのことである。当時、金融監督当局は不良債権問題の深刻化に伴い、公的資金の注入や不良債権処理などの対応を余儀なくされた。海南発展銀行は多額の不良債権を抱えたことから、事業の停止と清算を命じられた。国家権力が強制的に経営権を取り上げる接収は、中国においても滅多にない。

■性急なデレバレッジ政策が銀行経営に大きなダメージ
包商銀行の経営悪化が表面化したのは2017年頃からである。そのころ、不良債権比率の高まりなどを理由に、格付けを引き下げられた。

この主因は、性急なデレバレッジ政策を発端とする内モンゴル自治区の景気失速とみられる。内モンゴル自治区では厳しい投資抑制やシャドーバンキング抑制が実施され、2017年8月以降地下鉄や空港、高速道路など数多くのインフラプロジェクトが停止となった。この結果、かつて2桁の伸びを保っていた固定資産投資は、2017年と2018年の2年間減少を続けた。実質成長率は2016年の前年比+7.2%から2017年には+4.0%へ急低下し、2018年も+5.3%と回復が鈍い。融資先の収益悪化は、包商銀行の経営に大きな重石となったといえよう。

実際、包商銀行の融資残高の7割は内モンゴル自治区内向けで、卸小売、製造業、鉱業、不動産業など幅広い業種に融資を行っていた。同行の不良債権比率は1.7%と発表されており、商業銀行全体の不良債権比率とほぼ同じ水準である。もっとも、この不良債権比率は実態を反映していないと思われる。中国では、本来不良債権として計上すべき貸出債権を問題のない債権とみなすケースが少なからず見られるからである。

加えて、個人や企業から預金を集める力が乏しいため、融資資金をコストの高い銀行間市場等で調達せざるを得ないことも経営悪化要因の一つである。2016年末の総債務4,018億元のうち預金は1,936億元、銀行間市場での調達は716億元であった。2018年9月末には銀行間市場での調達が総債務の5割に達したとされる。

もっとも、性急なデレバレッジ政策の影響で景気が失速しているのは内モンゴルだけではない。たとえば、天津市の実質成長率もここ3年間+9.1%、+3.6%、+3.6%と急低下した。吉林省も+6.9、+5.3%、+4.5%と状況は厳しい。他方、輸出依存度の高い広東省や江蘇省、浙江省では、米中摩擦が重石となって景気減速しているものの、インフラ投資への依存度が低いため、デレバレッジ政策のダメージは小さく、減速は小幅にとどまっている。

天津市や吉林省などの地域で事業展開する銀行も、融資先の収益悪化に直面しているとみられる。包商銀行と同様に、預金が集まらず、銀行間市場等で資金調達する中小銀行も少なくない。

当局は6月2日、包商銀行接収の背景説明に加えて、全国の中小銀行の預金準備率を6月17日に引き下げることを表明した。これにより約1,000億元の資金が金融システムに供給され、中小銀行の流動性の安定化に寄与すると期待される。また、地方政府は経営破綻懸念がある銀行へ公的資金を投入する構えである。政府の対応が遅れれば、金融システム不安によって中国経済が大きく下振れる恐れもあるだけに、引き続き中国の金融セクターの動向は要注意である。
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