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JRIレビュー Vol.7,No.79

放課後児童クラブの国の整備目標の妥当性(公開2020年1月)-2045年までの利用ニーズの試算をふまえて

2020年06月11日 池本美香


保育所の待機児童問題が注目されているが、共働き家庭や一人親家庭の小学生が利用する放課後児童クラブ(学童保育)にも2万人近い待機児童がいる。このため国は2019~2023年度の5年間を対象とする「新・放課後子ども総合プラン」において、受け皿を30万人増やし152万人にするという目標を掲げている。本稿では、こうした国の整備計画の妥当性を、2045年までの利用ニーズの試算をふまえて検証するとともに、問題を放課後の子どもの過ごし方として広義に捉えたうえで、放課後児童クラブの今後の整備の在り方について考察した。

国の目標整備量30万人の根拠について詳細は公表されていないが、政府へのヒアリングによれば、女性の就業率の上昇に伴い学年別の放課後児童クラブ利用率が今後も上昇するという前提のもと、各学年の人口に乗じて算出されている。こうした推計に対し、以下3点が指摘できる。一つ目は、放課後児童クラブの供給が急速に拡大してきた2018年の数値を起点としていることである。子ども・子育て支援新制度がスタートした2015年には、放課後児童クラブの対象年齢が小学校3年生までから6年生までに拡大され、自治体がニーズ調査を行い、必要量を整備するという考え方になり、供給が需要を生み出すような状況がつくられている。二つ目は、放課後児童クラブの利用ニーズを左右する女性の就業率や小学生人口の変化は、地域によって大きく異なっているが、国は積み上げではなく全国の集計値で検討していることである。三つ目は、長期的に子どもの数が減っていくことが必至であるが、国の整備計画は2023年度までにとどまっていることである。

本稿で改めて放課後児童クラブの利用ニーズを試算すると、国の整備計画2023年度152万人は過大との懸念が生じる。試算では、女性の就業率(25~44歳)は、過去10年と同様のペースで上昇を続けるという前提を置いた。その就業率と小学生人口の推計値から放課後児童クラブの利用要件を満たす小学生数を求めると、小学生人口の減少により、2018年から2025年まで、470万人程度でほぼ横ばいで推移し、2045年には402万人に減少する結果となった。このうち、親の就労時間に融通が利くなどの理由から、実際に利用を希望するのはその一部である。利用を希望する割合(利用希望割合)が2018年のまま今後も変化しないとすれば、利用ニーズは2018年から2025年まで125万人のまま横ばいで推移し、それ以降は減少に転じ2045年には105万人となる。国がターゲットとする2023年度末時点で比べても2割弱少ない。今後の放課後児童クラブの整備にあたっては、当面ニーズのある地域に対し供給増を図りつつ、そもそもの利用希望割合の上昇を抑えるという、需給両面に働きかける発想が不可欠である。

当面の利用ニーズ増加への対応としては、既存施策における一層の踏み込みが求められる。第1に、学校の主体的役割の拡大である。現在は、学校そのものが放課後児童クラブの整備主体となることは敬遠されがちであるが、今後、学校の積極的な関与が期待される。第2に、放課後児童クラブの設置場所・設置形態の多様化である。具体的には、民間クラブや乳幼児施設の一段の活用や、企業主導型保育事業や家庭的保育事業の小学生への適用拡大が有力候補となる。第3に、支援員不足への対応でる。そのためには、処遇改善が必要であり、利用家庭の所得に応じた利用料の徴収や、学校・児童館との連携による支援員のフルタイム雇用化など、支援員の処遇改善に向けた取り組みが期待される。

放課後児童クラブが対象としているのは、ほんの少しの手助けで自立できる小学生であり、時間帯も放課後の数時間に過ぎない。人手を要し、時間帯も朝から夕方までの乳幼児の保育と異なり、放課後児童クラブについては工夫次第で利用希望割合を抑えることが可能である。利用希望割合の上昇を抑える取り組みとしては、大きく二つある。一つは、小学生の親の働き方の見直しである。次世代育成支援あるいは女性活躍支援の企業の認定基準として、小学生の子を持つ親の働き方に対する配慮を組み込むなど、柔軟な働き方を一段と促進することで放課後児童クラブへのニーズも抑えられるものと考えられる。もう一つは、放課後児童クラブ以外の居場所づくりである。その筆頭に児童館が挙げられる。児童館については、子ども・子育て支援新制度の次期整備計画(2020~2024年)において、自治体に児童館の整備計画策定を求め、一小学校区一児童館を目指し、ランドセル来館など運用も柔軟にすることが期待される。そのほか、校庭等を活用した遊び場づくり、図書館、こどもカフェ・こども食堂、公園など、安全性対策を施すなどを徹底すれば多様な場が候補となろう。

国は、保育所と放課後児童クラブをいずれも同列に「親が働くために必要なもの」ととらえ、ニーズ調査を行い、必要量を整備する方針をとっているが、小学生は乳幼児とは異なり、親が働く時間の相当部分を小学校がカバーしている。公的財源の制約や人手不足もふまえれば、現在の働き方や、安全・安心な子どもの居場所がない現状を所与のものとして、放課後児童クラブの大量整備を進めるよりも、新たな発想による働き方改革、子どもの居場所・遊び場づくりなど、子どもの立場に立ち、幅広い検討をすべきであろう。
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