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【農業】
若手農業経営者が提起する“農村DX”実現に必要なこと

2019年04月09日 清水久美子


 3月18日、日本橋三井ホールにて「スマート農業が興す“農村デジタルトランスフォーメーション”」と題したシンポジウムを開催しました。年度末にもかかわらず、600名を超える事前お申し込みをいただく盛況なイベントとなりました。今回、多くの方に注目を頂戴した背景には、スマート農業という言葉が広く普及した2018年度だったことが挙げられるのではないでしょうか。大手農機メーカーから自動運転農機が上市され、自動運転トラクターを取り扱ったテレビドラマも人気となりました。スマート農業がより実用段階に進んだことが多くの方々に認知されたと感じています。

 同シンポジウムでは、農村デジタルトランスフォーメーション(以下、「農村DX」)という新しいコンセプトを提唱しました。デジタルトランスフォーメーションに関する定義は様々ですが、私たちは「デジタル技術を用いて、組織や社会システム自体を変革し、新たな価値を生み出すこと」と定義しました。それを農村で実現させるのが農村DXです。農村全体をデジタル化して、儲かるビジネスを作り、住みやすい農村を作るというアイデアで、スマート農業の発展方向性を示唆するものでもあります。

 当日は農業を起点とした具体案の一つとして、エネルギー分野での例を提示しました。農村には、農業者を中心に、小規模な発電設備を持っている方がいらっしゃいます。最近は特にソーラーパネルの下で弱光性の農作物を育てるソーラーシェアリングや、水路での小水力発電が注目されています。しかし、これら設備は小規模であるが故に、余った電力は系統接続されることはなく捨てられてしまいます。他方で、今後普及が期待されているテクノロジーを見ると、電気自動車、ドローン、もしくは農業ロボット等、地域内の充電拠点が小規模でも複数あることで、効率的な運用が可能となる製品が多くあります。そこで農業者が地域の需要家と協力し、“超ローカル電力事業者”となることで、基盤インフラコストの低減、新しいテクノロジーの効率的な導入を実現しながら、環境に配慮した地域経済の活性化も期待できるというアイデアです。

 ただし、農村で新しいビジネスを作ることの課題もあります。パネリストとしてお招きした、シイタケの生産・販売を行う農業法人の代表取締役を務める深山氏からは、販路拡大を目指した際のご苦労を共有いただきました。深山氏は、元銀行員として活躍された後、3年前に家業を継がれました。経営視点を持つものとしてさらなる販路拡大に取り組む企画を立てることになった際の出来事です。都心への物流コストはシイタケ本体の値段を超える高額なものでした。そこで、地域で同様のニーズを持つ農業者仲間を集め、運送業の資格取得・冷蔵車の購入を検討したところ、資格取得には5台以上ものトラックを所有する必要があることが発覚。それでは本業に影響が出てしまうため、結果としてこの取り組みは保留となってしまったそうです。

 深山様の話は、地方部において、規模の小さな事業者が単独で変革を牽引しようとする際の、交渉力、実行力の限界を示唆するものでした。今後、農村DXを広げていくには、複数業種から、経営視点を持ち合わせたリーダーが集まり検討していく体制が不可欠となるでしょう。その上で、筆者は今最もイノベーションが勢いづく分野として、農業には農村DXのパイオニアとして地域を牽引していくポテンシャルがあると考えています。2019年度は、農業者だけでなく、自治体等と協力をしながら、他業種のアンメットニーズの掘り起こしや、推進のためのコーディネーションといった実践を通じて、農村DX実現の活動をしていきたいと考えています。


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※記事は執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
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