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JRIレビュー Vol.9,No.70

【特集 実装段階に入った社会・経済のデジタル変革】
デジタルで社会課題に挑むスタートアップ

2019年08月08日 岩崎薫里


近年、わが国ではデジタル技術を活用しながら社会課題の解決を図ろうとするスタートアップが相次いで登場している。挑んでいるのは、ヘルスケア、農業、地方、地域コミュニティなど広範な分野にかかわる課題である。そうしたスタートアップが増加している主な要因としては、①わが国の社会課題が深刻化・複雑化し、従来の手法では対応しきれなくなっている、②自治体の社会課題解決力が低下している、③デジタル技術の発展が、社会課題の解決と事業化のハードルを引き下げつつある、④事業を通じて社会に貢献したいと考える起業家が増えている、の4点が指摘できる。

社会課題の解決にスタートアップが果たし得る役割は大きい。スタートアップは既存企業が手掛けていない革新的な製品・サービスやビジネスモデルに挑戦し、イノベーションを創出することを目指しており、社会課題に対しても非連続的な解決方法を打ち出し得る。また、わが国の社会課題にどのような解決策が有効なのか明確でないなか、スタートアップの柔軟かつ機動的に試行錯誤を繰り返す手法が役立つ。さらに、スタートアップは規模が小さく現場に近いことから、社会課題の本質や背景を理解し、解決策を講じやすい。

社会課題の解決においてしばしば想起されるのがNPOであろう。社会課題解決型スタートアップがNPOと異なる点としては、①意思決定やその実行のスピードが速い、②資金調達力に秀でている、③調達した資金を活用して、人材を含めリソースを確保しやすい、④市場競争を通じて事業をブラッシュアップする機会に恵まれている、が挙げられる。ただし、この4点はあくまでも成功したスタートアップにのみ当てはまり、例えば資金調達で苦労するスタートアップも当然ながら存在する。また、これをもってNPOがスタートアップに劣ると主張しているわけでは決してなく、NPOには、事業化が難しくスタートアップが進出し難い分野にも入っていくことができるという利点がある。事業化が可能な分野はスタートアップ、困難な分野はNPO、という役割分担が重要になってこよう。

スタートアップの成果が顕在化するには時間を要する。そもそも新しい製品・サービスが受け入れられるのは容易でない。そのうえ、①規制の存在などにより、ソリューションの受け入れの素地が整っていない、②社会課題が現場では十分認識されていない、③現場に課題を解決しようという意欲が乏しい、④現場のITリテラシーが低い、といったハードルが往々にして存在する。

立ちふさがるハードルを乗り越えるために社会課題解決型スタートアップが重視するのは対話である。自分たちのソリューションが利用されることの社会的メリットを、時間と労力をかけながら説明して理解を得る、という地道な取り組みを各社とも行っている。また、対話において説得力を高めるために、効果の定量化に注力している。導入コストと得られる効果をデータとして提示し、コストを大幅に上回る効果があることを示そうとしている。ITリテラシーの低い利用者が多い分野では、とりわけUI(User Interface)とUX(User Experience)に力を入れ、誰もが簡単・ストレスなく操作でき、効果を実感できるような仕様になるように努めている。

スタートアップの活動は社会課題の解決に向けた重要な第一歩となり得る。それをさらに前進させる一つの方策として、外部との連携が挙げられる。とりわけ、自治体と連携することの意義は大きい。自治体はその地域で強い影響力を有することに加えて、自治体と連携したという事実がスタートアップの実績づくりと信用力の向上に寄与するためである。自治体のなかには、これまでのやり方では通用しないとの危機感を持ち、スタートアップとの連携に前向きなところが徐々に増えているものの、依然として連携に消極的なところのほうが多い。スタートアップは連携に前向きな自治体を探し出し、連携の実績をつくっていくことで、消極的な自治体も動き始めることを期待している。

スタートアップと自治体との連携促進に向けて、国が果たし得る役割としては、①スタートアップが社会課題の重要な解決主体となり得るということを広く知らしめる、②優れた社会課題解決型スタートアップの知名度の向上に向けて支援を行う、③社会課題解決型スタートアップが誕生・活動しやすい環境を整備することで、スタートアップの数や活動領域を拡大し、自治体の連携先候補を増やす、の三つが考えられる。

デジタルで社会課題に挑むスタートアップ(PDF:2087KB)
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