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ESG対応を契機としたCSR活動の見直し

2018年02月01日 大森充


GPIF「ESG指数」採用に伴う企業のESG対応の高まり
 2006年4月、当時のアナン国連事務総長が米国ニューヨーク証券取引所で「責任投資原則(PRI)」を発表した。これを契機に、環境(Environment)、社会(Social)、ガバナンス(Governance)の3つの視点を経営に組み込むことが企業の中長期的な成長にとって重要という、ESGの考え方が各国企業に広がってきた。
 日本では年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)が、「FTSE Blossom Japan Index」「MSCIジャパンESGセレクト・リーダーズ指数」「MSCI日本株女性活躍指数(WIN)」という三つの株価指数に基づいて銘柄を選定していることを2017年7月に公表した。規模としてはGPIFが保有する国内株全体の3%程度(1兆円)ではあるものの、GPIFが運用にESG投資の考え方を反映させているという発表は、日本企業がESG対応を加速する良いきっかけとなった。

CSR活動の孤立の解消
 実は、多くのCSR担当部署では、現在の活動に対してやや閉塞感が生まれていた。本来の事業活動との関係が必ずしも明確とはいえない中で、「社会的責任投資株価指数に入る」「CSR企業としてのランキングを上げる」「ISO26000を社内に展開する」といったCSR活動に費やすべきコストや時間がどのくらいであるべきかに悩まされている担当者は少なくない、というのが彼らと接してきた筆者の印象である。
 しかし、ESGの考え方を経営に組み込む企業への投資(=ESG投資)が注目を集める今、企業は事業活動とESGを連動させることを目指すようになった。これまで企業の事業活動とはどこか分断されてきたCSR活動は、企業が本格的に取り組む中心的な業務となってきたといえるだろう。



ESG経営の考え方
 ESGが求められる時代における経営、すなわち「ESG経営」では、まず企業理念および中長期的なビジョンから自社の事業領域を定め、関連する社会課題をE・S・Gフレームで整理する。そして自社とステークホルダーにとっての最重要課題を解決することを、本業(事業活動)として取り組む。
 その際、重視すべきは「①中長期的な事業領域は何か」「②社会課題を何で定義するか」「③(社会性と経済性の)各重要度をどう評価するか」の3つの視点である(図表)。ESG経営では、この①と②の視点で自社が解決するべき社会課題を定義し、③の視点でそれら課題の重要性や優先度を決定する。
 それには、経営ビジョンや中期経営計画の策定など①を行う経営企画担当部署と、②を担うCSR担当部署の緊密な連携が欠かせない。また、中長期的な事業領域と社会課題解決を考えることは事業開発のヒントにもなるため、事業開発担当部署との連携もESG経営の体現には有効である。

事業活動を通じた社会的価値と経済的価値の創出
 ある大手上場企業では、あるNPO法人を通じて、難民支援のための物資提供費用などへの寄付を毎年行っている。しかし、物資提供には一時的効果しかなく、創出される社会的価値も小さいことが課題となっていた。そこで、例えば英語の話せる難民を活用したウェブ英会話事業を日本のような非英語圏の先進国で展開し、その事業開発費用に寄付金を活用するように変えようとしている。新規事業によって雇用が生まれ、難民は継続的に収入が得られるため、創出される経済的・社会的利益の拡大が期待される。
 今後のCSR活動は、これまでの一過性のものから、上述のように継続性や創出される利益の規模も含めて計画されるべきである。国連が掲げるSDGsなどに表現される社会課題をどう事業で解決し、その結果をどうステークホルダーに公開していくか、を意識した新たなCSR活動への変革が各企業の動きとして今後進むと考える。

※執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません
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