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東南アジアのフィンテック動向と生活の変化

2018年04月24日 泰平苑子


 今年4月にわが国の金融庁は、スイス連邦金融市場監督機構(FINMA)とフィンテック推進協力に係る書簡交換を行い、フィンテック企業の相互紹介と支援提供、そしてフィンテックの革新に係る情報共有の推進を発表した。これに先立つ2月には、3メガバンクがQRコード決済の統一規格と協同システムの検討開発に合意している。このようにフィンテックは新興企業だけでなく、既存企業の連携や多国間の連携に拡大している。その動向は日本だけでなく東南アジアも同様で、注目領域として「e-Wallet」「QRコード決済」「仮想通貨」「PtoP送金」が挙げられる。

1.e-Wallet(モバイル財布)
携帯アプリを用いた電子マネーサービスにおいて主に先進国で普及しているのは、クレジットカードや銀行口座をモバイルアプリに登録した連携型e-Wallet(イーウォレット)だ。これに対して東南アジアではチャージ型e-Walletが普及している。このチャージ型e-Walletが普及した背景は、クレジットカードや銀行口座の保有率が高くないことや、チャージ型のプリペイド携帯の普及が既に進んでいることにある。例えば、ベトナムのmomoやtimo、インドネシアのGO-PAY、タイのTrue Money、シンガポールのPaycentなどがサービスを展開している。

2.QRコード決済
QRコード決済の先駆者は中国のAlipayやWechatPayであり、特にAlipayは東南アジア展開を進めている。一方、決済インターフェイスを通じて得られる情報が中国企業に流出する懸念を抱いたシンガポール政府やタイ企業は、日本と同じく国内統一QRコードの構築を進めている。利便性が高いQRコード決済は情報の宝庫であり、各国は決済インターフェイスの重要性を認識している。

3.仮想通貨
仮想通貨の不正流出問題により、日本では慎重な姿勢が続くが、東南アジアでは仮想通貨の日常利用が進んでいる。シンガポールのPaycentは仮想通貨と法定通貨を使用し、リアルタイム換金もできるチャージ型e-Walletで、手軽に支払・貯蓄・送金が可能だ。同じくシンガポールのサイクルシェアoBikeは、自転車のシェアだけでなく、シェアリングにより仮想通貨「oCoin」が獲得できるサービスを発表した。

4.PtoP送金
シンガポールのPayNowやタイのPromptPay、ベトナムのZaloPayは、相手の銀行口座番号を知らなくても携帯番号や国民IDだけで、e-Walletなどモバイルアプリを通じて国内外の送金を可能にしている。近年は、最低送金額が小さくなり、手数料が低額または無料、送金タイムスパンも短時間またはリアルタイムになって、国外送金や企業間送金だけでなく、個人間でも割り勘やお年玉など日常のさまざまな生活シーンでPtoP送金が用いられている。このPtoP送金はタイのTrue Moneyや、インドネシアのGO-PAY、ベトナムのmomoやtimo、シンガポールのPayNowやPaycentなど多くの企業がサービスを提供している。

 フィンテックは金融サービスのアンバンドリングで発展したが、今後は決済・貯蓄・送金・家計管理・保険など金融の再バンドリングのツールとなることが予想され、東南アジアでは既にその傾向が見られる。そして金融だけでなく、移動・食事・購買など人々の生活に関わるプラットフォームに拡大するだろう。例えば、配車アプリからスタートしたインドネシアのGO-JEKは、既に生活支援サービスのGO-LIFEや金融サービスのGO-PAYを展開し、生活プラットフォームとして大きな存在感を示している。
 目先の利便性や革新性に囚われると、上記のような中国や東南アジアの先行サービスが、一気に日本へ展開する可能性も高い。しかし、フィンテックは個人の決済・購買・資産の情報に関わるセンシティブな領域のため、わが国でも企業がフィンテックで競争力を有する状況を作ることが急務である。同業企業間や他国間の連携だけでなく、国内のフィンテック新興企業と、既存顧客基盤を有する国内既存企業がそれぞれの強みを活かして連携し、利便性と革新性だけでなく、高いセキュリティを有するプラットフォームの構築が求められる。


※記事は執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
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