オピニオン
トランプ政権で重み増す国内投資とLNG
2018年03月27日 瀧口信一郎
2018年3月13日に米国のトランプ大統領は、ティラーソン氏が辞任し、新たな国務長官にマイク・ポンペオCIA長官が就任すると発表した。トランプ大統領とティラーソン氏の間に確執があると言われてきたが、ついにティラーソン氏が解任された形だ。北朝鮮との対話路線を主張したティラーソン氏の発言が直後にトランプ大統領によってツイッター上で否定されるなど、ティラーソン氏は幾度となく面目をつぶされてきた。CEOとしてエクソン・モービルという世界最大の石油企業を率いたティラーソン氏にとって耐えがたい屈辱が何度もあったことだろう。これまでも多数の政権幹部が辞任に追い込まれているが、政権内の内紛が改めてクローズアップされた。
一方、ティラーソン氏解任で再認識すべきことは、トランプ氏の大統領としての個人的な資質云々ということよりむしろ、トランプ政権が政権樹立前に目論んでいたロシア協調政策が終焉するということである。ティラーソン氏は、エクソン・モービルCEO時代にプーチン大統領とも親交があったことが、ロシアとの協調路線を模索していたトランプ大統領の目に留まった面がある。たとえ大統領とそりが合わなくても、ロシア協調がアメリカ外交の重要な位置を占めていれば、ティラーソン国務長官は活躍の場を得ていた可能性もある。解任に至ったことは改めて当初のトランプ政権の目論見が外れたことを示す。
アメリカとロシアの協調路線終焉は、エネルギー政策の観点で天然ガス生産量世界1位のアメリカと2位のロシアによる天然ガス市場共同支配の可能性がついえたことを意味している。アメリカとロシアが組めば、世界の天然ガス生産量の3分の1超を占め、2大国に迫る生産量を持つ国は他にないため、市場を支配できると考えたふしがある。ティラーソン氏はエクソン・モービル時代にロシアとの関係構築を行い、天然ガス権益を多く獲得しており、米ロ協調の素地はあった。
しかし、2017年末に、トランプ政権発足後のロシアとの関係後退を受けてエクソン・モービルが、ティラーソン元CEOの最大の功績とされたロシア国営企業ロスネフチとの合弁撤退に至った。ロシアとの関係が良好であれば、さらなる拡大にもつながり得る合弁だったが、急速にブレーキがかかった。
ロシアとの協調の可能性消滅で、トランプ大統領にとって残された天然ガス政策は、国内のシェール開発への集中である。多くの批判に反し、アラスカなど生態系への影響が懸念される地域でも、国有地で事業者にリースしてシェール開発を全面的に許可する方針だ。
既にエクソン・モービルは国内回帰を進め、トランプ政権1年目の最大の成果である法人税大幅減税による巨額の節税効果を元手に、2018年1月には5年間で500億ドル(約5.5兆円)の国内投資計画を公表するなど、大手石油会社によるシェール権益確保は拡大の一途を遂げている。
ユーラシア大陸とパイプラインがつながっていないアメリカのシェールガス急増は、LNG(液化天然ガス)輸出に直結する。アメリカとロシアの協調がなくなったことでLNG市場に競争が生まれるメリットもある。ただし、石炭から天然ガスへの転換を進める中国の本格的な参入を呼び起こし、価格変動リスクが高まる可能性がある。実際、シェールガス増産で、中国はアメリカからのLNG輸入拡大を模索しており、2018年2月には国有企業である中国石油天然気集団(CNPC)がアメリカLNG大手のシェニエール・エナジーと長期輸入契約を行った。中国は2017年に前年比50%を超える輸入量増加で、韓国を抜いて日本に次ぐ世界2位のLNG輸入国になっている。
LNG市場が不安定になれば、日本の天然ガス火力発電や事業用・家庭用の天然ガス供給に影響する。日本では長期価格変動リスクヘッジや余剰のLNGを売買できるLNG取引市場整備、取引に必要なLNG基地の確保が懸案事項のままである。必要性が認識されながら進まないのは、日本国内の長期の需要減退、LNGの政策上の位置づけ後退を懸念し、取引市場整備、天然ガスインフラ投資を本格的に進めてよいのか政策当局、事業者の迷いがあるからだと筆者の目には映る。しかし、多様なエネルギー源で、国内に資源を有しない環境をしのいできた日本にLNGを捨てる選択肢はない。LNG価格変動のリスク対策を日本も真剣に考える時期に来ている。
※記事は執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。