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【シニア】
第25回 ギャップシニアと外出

2018年01月30日 岡元真希子


 要介護状態とアクティブシニアの間にあるギャップシニアにとって、外出するかしないかは日常生活における大きな分水嶺である。外出には、足腰の筋力維持という側面と、人との交流という社会活動・認知症予防の側面の両方とがある。もともと体調・体力が低下していて外出頻度が減るという要素もあるが、外出が少ない人は数年後に要介護状態に至る率が高い。

 高齢者の外出頻度については、市町村も注目している。3年に一度の介護保険事業計画の策定に先立って、市町村が実施する「日常生活圏域ニーズ調査」において、高齢者の外出頻度を尋ねている。2013~14年度に実施された調査では、外出頻度が週1回「未満」の高齢者について「リスク有」として着目していたが、2016~17年に実施された調査では、外出頻度が週1回「以下」を「リスク有」とするようになった。

 日本総研の全国パネルデータに基づく集計では、外出週1回未満の高齢者の割合は、アクティブシニアでは2.5%であるのに対し、ギャップシニアでは12.0%と、5倍近い開きがある。ギャップシニアの約6割は階段を昇るときに手すりを必要としたり、転倒経験があったりするなど、足腰の力が低下している。人との交流も減り、認知機能低下の兆候も見られる。

 このようなギャップシニアが、外出して人と交流したり、体力を維持したりして自立した生活を営むことを支援するために、市町村は介護予防の取り組みを行っている。そのひとつが「通いの場」の整備である。厚生労働省の調査『介護予防事業実施状況報告』によると、平成27年時点の通いの場は全国に約7万カ所あり、平成25年度に比べて1.6倍に増加している。箇所数でいうと全国のコンビニの数よりも多く、高齢者人口500人ごとに1カ所ある計算になる。ただし、その約半数は月に1度程度開催される運動教室やサロンなどである。拠点の運営に携わるアクティブシニアにとっては月1回であっても会合を支える準備は負担という面があるとはいえ、ギャップシニアが、本来、週2回以上外出し、張り合いのある生活を送ることを支えるためには、この開催頻度ではやや不足がある。

 通いの場への参加実人数は約132万人であり、高齢者人口の約4%にあたる。通いの場の運営を担う人を育て、拠点の数を増やしたり、活動の頻度を上げたりするという面も重要である。ただ、一方で、高齢者の外出先は、介護保険の枠組みで市町村が整備するものだけではない。都市部であれば、民間のスポーツクラブなどといった選択肢もあるし、地域によっては趣味のサークル活動や、地区社会福祉協議会など介護保険制度以前からの枠組みで発達した地域の拠点が充実している場合もあるだろう。また、就労も大きな外出の目的である。例えば、75~79歳の男性の22%、女性の12%は労働力人口である。

 ギャップシニアの外出を促すための社会資源の整備は、介護保険の枠組みにとどまる必要もなければ、シニアの役割を「お客さま」に限定する必要はない。地域福祉、市民活動、さらには民間の事業者も含め、シニア自身に担い手にもなっていただきながら、「出かけたい」さらには、「出かけなくては」と思うような場所を拡大していく必要があるだろう。

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※記事は執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
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