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【シニア】
第23回 サロンやカフェの政策的活用には「評価のしくみ」が必要

2017年09月26日 齊木大


 地域包括ケアシステムの構築に向け、サロンやカフェと名のつく取り組みが自治体(保険者)の政策として取り上げられる場面が増えている。医療、介護、福祉といった制度の縦割りではなく、高齢者が要介護状態となっても出来るかぎり地域で暮らし続けられるよう、介護予防や支え合いの体制を構築することに重点が移っていることが背景にある。
 高齢者一人ひとりの「暮らし方」に軸足を移すわけだから、当然、地域ごとに必要な取り組みや効果のある取り組みは異なるはずだ。したがって、国が主導する一律の制度運営から、自治体(保険者)ごとの判断に大きく委ねられる制度運営へ、さらに介護事業者やNPO、住民など民間を主体とした制度運営へと、制度運営のやり方も変化が迫られている。
 こうした背景の中で、高齢者一人ひとりの嗜好や個性、地域の特性を踏まえて、高齢者と制度との接点を作る手段の一つとしてサロンやカフェが注目されているわけだ。高齢者の生活を支えていくには、個人の嗜好や生活スタイルに合わせた情報やサービスの提供とともに、個人の意識変革・行動変容も求められる。サロンやカフェは利用者との深い関係性を構築できるため、まさにこれからの制度運営にとっては有望な手法と言える。

 ただし、落とし穴もある。サロンやカフェは持続的な運営が難しいのだ。収支ももちろん課題だが、何よりも利用者の固定化・硬直化が課題となる。利用者が特定の範囲に収まってしまうと活動は拡大せず、収支の改善も見込めない。民間が独自にやる活動なら何も問題ないが、公費を投入して政策的に活用する以上、地域に暮らす高齢者のQOL向上や介護予防といった波及効果が期待される。
 この課題を解決するためには、利用者の分布や参加状況を定期的に評価して振り返り、活動内容が偏らないよう常に見直しを図っていくことが不可欠だ。実際、全国でも先進事例として取り上げられるような取り組みは、こうした見直しを体現できるキーパーソンがおり、見直しと実践を積み重ねている。しかし、そのノウハウは言語化しにくく、視察や研修ですぐに伝えられるものではない。では、どうすれば良いか。

 答えは、サロンやカフェの活動に「評価のしくみ」を実装することにある。つまり先進事例に見られるような「たまたま出来る人」がキーパーソンとして現れるのを待つのではなく、意識的に活動を見直すしくみを導入するのだ。具体的には「利用者動向の把握」と「定例の評価・振り返りミーティング」が有効だ。
 ギャップシニア・コンソーシアムでは、地域プラットフォームの現場運営において、利用者の動向や発言を把握するために簡易なシステムを導入し、そのデータ分析に基づく活動の評価・振り返りミーティングを定例化している。現場で実践しているスタッフからすれば「そんなことは全て頭に入っている」となるだろうが、活動の実態を見える化して客観的に振り返ることの効果は侮れない。実態把握は、取り組みがもたらす地域への波及効果を説明したり、検証したりすることにも活用できる。
 サロンやカフェといった緩やかな取り組みに「評価」という言葉はそぐわないかもしれないが、活動の良しあしの査定ではなく、活動をより良いものへと持続的に改善し、政策的な効果を説明できるようにしておくためにも、ぜひ「評価のしくみ」を組み込んで活動を設計するべきだ。

この連載のバックナンバーはこちらよりご覧いただけます。


※記事は執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
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