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【次世代交通】
地域社会の「新しい足」 自動運転移動サービスの創出 No1 利用者と交通事業者は自動運転移動サービス実証をどうみたか

2017年04月25日 武藤一浩


自動運転の議論は、利用者を置き去りにしていないか
 自動運転は、2020年の東京五輪での活用を目標に急ピッチで技術開発が進められています。自動運転実現のための公道での技術実証や規制緩和には、一般の方からも高い関心が寄せられるようになりました。一方で、現実のものとなる自動運転が、実際にどのような形で利用者から受け入れられるのかについての関心は比較的薄く、議論も深まっていないのが実情ではないでしょうか。

 日本総研では、およそ30団体の参画を得た企業や自治体による民間コンソーシアムでの活動(2013~2015年)を皮切りに、自動運転の車両技術を地域の交通サービスに落とし込むための具体化検討を進めてきました。その過程で、自動運転のサービスを真に必要とする地域のニーズこそが重要という認識に至り、前号のあらすじのとおり『40~50年前に全国的に展開された住宅地であるオールドニュータウンにおけるラストワンマイル自動運転』に着目して、実証を繰り返してきました。神戸市北区筑紫が丘地域で2016年10月に行われた実証もその一つです。前号のあらすじからの続きになりますが、本号以降では、まずは実証に参画した地域住民や交通事業者の方々からのコメントをご紹介します。

■実証(神戸市北区筑紫が丘地域)の概要
目的:    近距離低速のモビリティに対する利用ニーズの有無の確認
場所:    神戸市北区筑紫が丘
期間:    2016年10月4日(月)~10月30日(日)
運行時間:  9時~17時
実施方法:  自動運転の代わりに黒子の運転手を配置
       ①定ルート走行(電気自動車のi-MiEV:三菱自動車工業)。路線上ならどこでも乗り降り可能
       (イオン周辺だけ一部乗降規制あり)
       ②デマンド走行(電動三輪車のLike-T3:光岡自動車)予約制(スマホ・コンピュータか電話で予約)
       で、筑紫が丘内ならどこでも送迎可能
運営・実施: 神戸自動運転研究会(※)
利用登録者数: 100人以上

次世代交通

※神戸自動走行研究会
運転手不足と高齢化問題の解決策として自動走行の導入を研究する、神戸市の交通事業者による任意団体。本実証を主体的に実施。発起人はみなと観光バス(株)。メンバーはほかに、近畿タクシー(株)、恵タクシー(株)、六甲産業(株)、有馬自働車(株)(順不同)。

■神戸市北区筑紫が丘自治会(会長および副会長)
5年以内で地域住民の半数が移動困難者に
 実証を筑紫が丘で行うという話を聞いた時からとても魅力を感じました。なぜなら、数年後の地域社会の姿に危機感を感じていたからです。
約2,000世帯、6,000人程度が暮らす我々の自治区では高齢化が進んでいます。現在は65歳以上の住民が全体の40%を占め、5年後には50%にまで達する見込みです。この地区は若干の丘陵地となっているため坂道が多く、近距離移動すら困難となる方々が顕在化するようになりました。また、公共交通が利用しにくいことから移動の多くをマイカーに頼らざるを得ず、特に高齢者では運転で事故を起こさないか不安を感じている住民が少なくありません。今回の実証で用意されたような近距離を低速移動する単純な移動手段は、我々のような地域では今後必須になると考えています。1カ月と短い期間でしたが、利用登録者が100人を超え、アンケートへの回答もうち68人から得られたことが、期待の高さを表していると思います。

 また、当自治会では、防犯活動を行ったり、高齢者の方々を助ける「近助」活動を実施したり、リタイア層が地域コミュニティに溶け込むきっかけを作ったりしていますが、そのなかで自動運転車両が役立つ場面が多いものと期待しています。実際、日本総研がまとめた住民利用者アンケートの結果では、カメラ機能を持つ車両が地域を走り回ることが防犯に役立つ、近距離で地域住民同士が乗り合うことで顔見知りが増える(地域コミュニティに入るきっかけとなる)といった、当初あまり予想していなかった声も聞かれました。単なる移動手段を超えた、自治活動の強化につながる付加価値まで提供できそうです。

 また、アンケートの結果では、定額制乗り放題での利用を希望する声もあり、中には料金を自治会費にあらかじめ上乗せることで地域の皆が気軽に乗れるようにするべきとの意見もありました。ひと月の間で利用登録者が飛躍的に増加していることを見ると、確かな期待値があることを実感しています。今後は、ぜひ自動運転の動きを体験し、自動運転に慣れる(地域受容性を高める)ことで、早期導入が実現することを願っています。

 ところで、スマホなどIT機器の使用を前提とした自動運転サービスを考えているのであれば、それは我々の次の世代向きと割り切っていただくこと方がよいかもしれない、ということは最後に申し上げておきたいと思います。今回の実証において、私たちからは、時刻表や車両がどこにいるかを知らせるモニターを、スーパーマーケットや喫茶店などよく立ち寄る施設に設置することを求めました。時刻や車両の位置情報はスマホからも得られるようになっていましたが、スマホを基本としてしまうと、高齢者の多い当自治会では利用が難しくなってしまいます。スマホを使える仕組みと並行して、全ての人が利用できることを意識した環境整備を望みます。

 以上は、自治会を代表する方々の生の声です。特に最後の「IT機器の使用を前提としないほうがよい」といった指摘は、今回の実証で行ったデマンド走行よりも、定ルート走行の方が利用実績があった事実にもつながると思います。今後、利用結果についてもお知らせしていきますが、IT機器などを使わずとも、手間がかからずに気軽に乗車できた定ルート走行が支持されたという事実は、日本総研にとっても新たな発見でした。
次号では、交通事業者側の意見をご紹介させていただきます。

『LIGARE(リガーレ) vol.31』(自動車新聞社出版)地域社会の「新しい足」自動走行移動
サービスの創出(前編)P30~33を一部改変して転載


この連載のバックナンバーはこちらよりご覧いただけます。


※記事は執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
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