創発戦略センター ISSUE 338 2017/01/24(火)発行
創発
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官民あげて自動運転に関する議論や商品開発が盛り上がっています。創発戦略センターでは自動運転社会が
到来した際、実社会のどのような場面で適用されるのが妥当かを検証する実証を行ってまいりました。
今回の創発Eyesではそれら活動から得られた示唆の一部をお送りします。

※ ESG Research Reportページに「業績連動役員報酬の現状と課題(2)株式報酬と報酬水準」についての記事
  "Are executive remuneration levels in Japanese companies fair? "を掲載しました。
  こちらからご覧ください。
   1. Ikuma Message

・地球温暖化の国際的な議論の行方

   2. 創発Eyes

・実社会に組み込まれる無人自動走行移動サービスの条件

   3. 連載_シニア

・第17回 世界と日本で広がるリビング・ラボの活動



創発戦略センター
所長
井熊 均
 

地球温暖化の国際的な議論の行方

 1月20日、ドナルド・トランプ氏がアメリカ大統領に就任しました。選挙中、選挙後の過激な発言に世界中が揺れ、トランプ氏の就任を今年最大級の懸念要素とする人も少なくありません。しかし、発言に惑わされ、不都合なことをトランプ氏大統領就任のせいにしていると、本質的な問題から目をそらしてしまう怖れがあります。

 前回のメルマガでは、グローバル化と格差の問題を指摘しました。日常の業務活動を見ても、グローバル化に格差を助長する要素があることは否定できません。トランプ氏をポピュリストと指摘する声もありますが、本来問題なのはポピュリスト的な振る舞いが支持される社会の状況にあるはずです。

 筆者が関わりの深いエネルギー・環境分野では、トランプ氏のパリ協定離脱発言が懸念されています。しかし、オバマ前大統領はパリ協定批准に当たり、議会と十分な議論を行っているとは思えません。誰が大統領になろうと、アメリカ国内は国民に負担を課すような温室効果ガス削減政策を合意するのが容易な状況ではありません。冷静に見れば、アメリカのパリ協定の批准にはオバマ政権のレガシー政策としての側面と中国との対抗・協調政策という側面があるように思えます。

 パリ協定に関してアメリカが確実に進めるのは、コストが下がった風力発電の導入とシェールガスによる石炭火力から天然ガス火力への転換でしょう。そこには、国民に負担を強いてでも再エネの大量導入にひた走るドイツとの大きな違いがあります。一方、毎月のように中国に通っている立場から見ると、中国の環境政策には力が入っているように見えます。中央政府、地方政府、国営企業、民間企業、等、誰に聞いてもぶれがありません。地球温暖化の国際的な議論の枠組みは大きく動こうとしています。

 トランプ氏のパフォーマンスのベールを透かして、世界に起こっていることの底流を見定めたいものです。



創発戦略センター
マネジャー
武藤 一浩
 

実社会に組み込まれる無人自動走行移動サービスの条件

 国が取り組みを加速し始めた限定地域での無人自動走行移動サービスに、技術面や規制面から注目が集っています。その一方で、実社会のどのような場面で適用されることが妥当であるかの検討は、やや不十分なのが実情ではないでしょうか。そこで、われわれは世の中で実際に役立つ無人走行移動サービスの創出を地域交通事業者と共に推進しています。

限定地域での無人自動走行移動サービスとは
 国が「官民ITS 構想・ロードマップ2016」(注1) で提示したように『限定地域での無人自動走行移動サービス』の実現に向けた取り組みが加速しています。これは、制限された区域(限定地域)内において、地域公共交通に近いイメージのサービスを行おうとするものです。基本的には、限定地域内から地域公共交通の拠点までをつなぐ移動手段という想定ですが、自宅玄関前からの乗降の可能性も検討されています。
 すでに大学や企業による公道での自動走行技術実証も進められており、この流れでいけば、政府のロードマップのとおり、2020 年度にはサービスが普及するのも夢でないかもしれません。ただ、ここで、無人自動走行移動サービスの早期導入が求められる『限定地域』とはどのような地域なのでしょうか。

実需があり事業継続性が期待できる限定地域こそが当初の導入先
 無人自動走行移動サービスの導入には、安全の確保をはじめとしたさまざまな面からの検討が欠かせません。実際、技術面を見ると、イレギュラーな状況への対応にまだ不安が残るため、歩行者や自転車、一般車両の往来が激しい地域への導入は時期尚早といえます。規制面では、重大事故を避けるため、20km/h 以下での走行しか認められておらず、国際基準においては自動ハンドル操作は10km/h 以下の走行の場合のみに限定されています。また、事業継続面を考えれば、利用者が見込めない過疎地での導入は厳しく、ある程度の人口密集地を選択せざるを得なくなります。
 当社は、2013 年から、無人自動走行サービスの導入が切実に求められる地域を図のように整理して、絞り込みを行ってきました。

図オールドニュータウン

 袋小路は一般車両往来が少なく、さらに丘陵地となると歩行者や自転車の移動も少なくなる特徴があり有望です。低速運行をサービスとして成立させるには、近距離移動でも車両に乗車して移動したいというニーズが強い、高齢者が多い地域を対象とすることが妥当でしょう。人口密集地については、単純ですが住宅地が候補となるでしょう。住宅地周辺は「生活道路」(注2)となるため一般車両も30km/h 以下の低速走行規制があてはめられるという地域特性もあります。
 これらの検討を進めることで、サービス導入を最も必要とする地域は『40〜50年前に全国的に展開された住宅地であるオールドニュータウン』と結論付けられました。なお、このようなニュータウンは、われわれの推計では、全国に2,000カ所程度存在すると考えられます。

地域交通事業者も導入を望む「限定地域での無人自動走行移動サービス」
 多くのオールドニュータウンは公共交通がやや不便な郊外に位置しています。また、住民の新陳代謝があまり進んでおらず、住民の高齢化が進んでいるところが多いのも特徴です。生活の足をマイカーに頼らなくてはならないため、高齢で運転に自信がなくとも免許を返納できず、結果として起こしてしまう不幸な運転事故も少なくありません。
 これら高齢化地域における生活の足に関する切実なニーズに、早くから着目していた感度の高い地域交通事業者も存在はしていました。しかし、一定のニーズが感じられても、既存の公共交通手段では採算に乗りにくく対応できないとの判断を下す事業者がほとんどでした。そのような中、関西のある地域の交通事業者達が、自ら自動走行研究会を立ち上げました。この自動走行研究会では、バス会社(1 社)、タクシー会社(2 社)、レンタカー会社(2 社)と同一地域内において異なる業を営む交通事業者が、地域の移動課題に対応した自動走行サービス実現という同じ目標に向けて共に取り組み始めたのです。今後、この自動走行研究会の活動についての情報を発信していきますので、注目いただければ幸いです。

(注1)「官民ITS 構想・ロードマップ2016」:
    http://www.kantei.go.jp/jp/singi/it2/kettei/pdf/20160520/2016_roadmap.pdf
(注2)「生活道路」:警察庁では、平成21 年に最高速度規制に係る交通規制基準の見直しを行い、生活道路については「歩行者・車両の通行実態や交通事故の発生状況を勘案しつつ、住民、地方公共団体、道路管理者などの意見を十分に踏まえて、速度を抑えるべき道路を選定し、このような道路の最高速度は原則として30km/hとする」ことを定めた。

※武藤一浩「GPUが可能にする自律運転」(LIGARE/自動車新聞社出版) vol.30(2016年11月) P.38-39 を一部改変して転載



創発戦略センター
スペシャリスト
劉 磊
 

第17回 世界と日本で広がるリビング・ラボの活動

 Common shared value(CSV:共通価値の創造という概念が提唱されて定着しつつあるが、これと呼応し、実現する活動の一つがリビング・ラボである。これまでも本コラムシリーズで数回登場してきたリビング・ラボであるが、今回はその成り立ちと世界的な動きを紹介したい。

 リビング・ラボの考え方は1990年代前半、米国で提唱された(W. Mitchell、J.Suominen、G.D. Abowdらによる)。氏らは住民(生活者・当事者)と「共創」するイノベーションの総称としてリビング・ラボを提唱した。まちの主役である住民(生活者・当事者)が、暮らしを豊かにするためのサービスや商品を生み出し、より良い品質にしていく活動を指す。
 従来、一般的には企業の中にあった開発機能(ラボ)を住民の近く(リビング)に置き、住民と共にPDCAサイクルを実行することで、製品の開発期間を短縮し、狙ったセグメントに対して「ニーズに正しく応える」商品を開発できることが期待されている。企業と住民、場合によっては行政や大学など様々なステークホルダーが試行錯誤しながらアイデアを具体的なサービス、商品に成熟させるところに、従来の企業単独で行われがちな商品開発になかった機能が付与されているのである。

 興味深いことに、リビング・ラボはその提言が生まれた母国である米国よりも、欧州で定着・発展してきた。自由主義の元での競争よりも、相対的に共創を重んじる欧州の価値観との親和性が背景にあると推測されるが、2000年ごろから特に北欧を中心に急速に展開した。代表的な国策として、2000年以降よりフィンランドで「ナショナル・テストベッド プロジェクト」が推進され、同様にスウェーデンでも「LL(リビング・ラボ)設立支援プロジェクト」が展開された。2006年よりフィンランド首相が欧州委員会議長に就任した後は、北欧の政策がEUの政策へと拡大され、リビング・ラボはEU全土への広がりをみせた。世界で活動するリビング・ラボの大多数が現在もEUに拠点を構えるが、近年アジア、南米、カナダなどにも展開され、グローバルでは50カ国・388のリビング・ラボが活動中である(2016年1月時点)。

 リビング・ラボの魅力の一つが、その世界的ネットワークである(European Network of Living Lab:ENoLL)。例えば欧州の企業で開発された商品がアジア諸国の住民ニーズに合うか、などのようなテーマの検証は、相手国にリビング・ラボがあれば、それを活用した実証試験が可能である。また両国にリビング・ラボがある場合は、これらを経由して相互の国で検証実験を展開することも可能だ。世界的に展開するグローバル企業なら、同様の調査を調査会社に依頼して実施することも不可能ではないが、リビング・ラボを活用した方がコスト面等でのメリットがある。また規模的には手軽に海外での実証が難しい中・小規模の企業にとっては、海外展開前のコンセプト検証、プロトタイプテストに有用なテストベッドである。
 日本では、ENoLLに登録されているリビング・ラボはまだ1箇所である(慶応義塾大学大学院メディアデザイン研究科「リアルプロジェクト」)が、マルチステークホルダーで共創を目指す同様の枠組みが増えているところだ。松本市の松本ヘルス・ラボではヘルスケアに焦点をおき、企業、大学を巻き込んだ取り組みが続いている。筑波大学の原田教授を中心に2011年度に立ち上げた「みんラボ」(みんなの使いやすさラボ)では、企業、行政他から依頼を受ける形で様々な商品サービス等について、高齢者の使いやすさを検証している。

 これまでのコラムでも紹介してきたように、われわれ日本総研も、進行中のギャップシニア・コンソーシアムの実証試験において、地域拠点を活用し、住民や企業と共に高齢者向けの商品・サービス開発を行っているところだ。今後は大学との連携をさらに深め、グローバルネットワークへの接続を狙っていきたい。高齢者先進国である日本で開発された商品・サービスは、世界に売っていかないともったいない。

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