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Business & Economic Review 2012年7月号

わが国における消費者ローンの利用構造の変化と市場への影響

2012年06月25日 岩崎薫里


要約

  1. 消費者ローン市場は過去数年間、急激に縮小している。その直接の要因は、過払い金返還問題で主要な貸し手である消費者金融会社および販売信用業者の体力が低下したところへ、改正貸金業法の施行で業務規制が大幅に強化されたことである。


  2. 改正貸金業法の施行を契機に、同法の適用対象外である銀行が消費者ローン市場においてプレゼンスを高めつつある。銀行は消費者金融トップ2社を傘下に収める一方で、カードローンに積極的に乗り出している。もっとも、消費者金融会社および販売信用業者の顧客のうちハイリスク層については、銀行としてもアプローチしづらいことを考えると、銀行が両者の業務縮小の完全な受け皿になることはできない。


  3. 改正貸金業法の施行によって多重債務者の数は統計上は減少した。しかし、借り入れを断られた者の一部は、ヤミ金融などの非合法的な事業者の利用に向かっている模様である。また、クレジットカード・ショッピング枠の現金化商法といった新手の脱法行為も登場している。このため、多重債務問題が表に出ない形で続いている可能性がある。


  4. 消費者の間で、借り入れができなくなったことで生活が行き詰まるケースが増えている可能性がある。もっとも、生活に行き詰るほど困窮している消費者は返済余力に乏しく、仮に改正貸金業法以前の状態に戻った場合、結局は返済のための借り入れを重ねる自転車操業に陥り、多重債務者になる恐れがある。このように、借り入れを受けられないと生活に行き詰まり、受けられると多重債務に陥るという隘路が消費者ローン市場の一部で生じているのは、単に法改正の影響にとどまらず、経済構造の変化に伴って借り入れニーズが変質しているためと考えられる。


  5. わが国経済の低成長が長期化するなかで、雇用・所得の不安定化が進み、返済への不安から借り入れを躊躇する、あるいは借り入れを行ってまで背伸びするよりも身の丈に合った生活をしようという意識が強まり、それが消費者ローン市場の縮小の一因になったと考えられる。消費者ローン市場が2006年の過払い金返還問題の本格化および改正貸金業法の成立以前から増勢が止まっているのは、こうした中長期的な要因が寄与していると推測される。


  6. その一方で、雇用・所得環境の悪化とそれに伴う貯蓄のバッファの縮減により、借り入れニーズ全般が減退するなかでも「生活費の補填」目的での借り入れニーズはむしろ増加した。その影響で借り手の信用力が低下し、多重債務問題の深刻化、ひいては改正貸金業法の成立につながったと解釈することができる。また、改正貸金業法の施行により、生活に行き詰る者が増加したのも、借り入れ目的として「生活費の補填」が増えたためと推測される。


  7. 以上を踏まえて今後の消費者ローン市場の姿を展望すると、無担保で迅速に小口資金を借り入れたいというニーズは今後も一定程度存在し続けると見込まれる。その一方で、消費先取りのための借り入れや背伸び消費に伴う借り入れへのニーズは、わが国経済の成長力が大幅に回復しない限り、再び盛り上がる可能性は小さい。「生活費の補填」目的の借り入れニーズも、改正貸金業法の存続を前提とすると低調のままであろう。したがって、市場の回復力は緩やかなものにとどまらざるを得ず、ピーク時の市場規模に戻る公算は小さい。その一方で、銀行のプレゼンスが高まることで、それまで消費者ローン市場で繰り返し生じてきた貸し手と借り手の間のトラブルは減少すると期待される。


  8. 一方、消費者ローン市場から排除される消費者が今後、一段と増加する可能性が高い。改正貸金業法の施行により、消費者ローンからの借り入れが大幅に制限されることとなり、また、たとえ借り入れを受けられたとしても返済に支障を来たし、結局は市場から閉め出されることになるためである。その根本的な背景には、生活困窮者の増加という問題を社会が放置したままである点が指摘できる。営利を目的とする一般の銀行・ノンバンクが生活困窮者の救済を手がけることは極めて困難であるにもかかわらず、これまでそれが行なわれてきた。しかし、そうした体制はいよいよ限界に来ている。公的セクターが深くコミットする形で、生活困窮者の救済のための抜本的なスキームを構築することが、わが国に課された喫緊の課題であるといえよう。
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