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【次世代農業】
農業ビジネスを成功に導く10のヒント~有望な新規事業の種はどこに埋まっているのか?~第3回 ヒント(2)植物工場を儲かるビジネスにするための戦略

2016年07月26日 清水久美子


 現在、日本国内における植物工場は400件近くあります。家電メーカー、ゼネコン、鉄道事業者等の大手企業を中心に、異業種からの農業参入として取り組むケースも多く見られます。小売・外食産業では農業ビジネスそのものへの関心の高まり、製造業では自社工場等の余剰エネルギーや遊休資産の有効活用、経営多角化などが主な理由です。私たちは数多くのマーケット調査、事業計画策定の支援を行ってきましたが、事業計画策定にあたっては、各社「何を育てれば儲かるのか」が高い関心事項の1つとなっています。

 植物工場は、土地面積あたりの生産性が高く、制御した環境下で栽培が可能なため、品質・供給量が安定しているというメリットがあります。マーケットにおいても、新鮮さ、無農薬、洗浄不要、歩留まりの良さといった点が評価されています。一方で、リーフレタスなどコモディティ化した品目については、一部の消費地で供給過多の兆候が見られ始め、露地栽培品との価格競争が激化し価格が低下することが予測されています。ある試算では、日本国内における植物工場産汎用リーフレタスのマーケットは2022年に100億円を超え、2025年時点で120億円程度になるという予測結果が出ています(2015年時点の植物工場産レタスの生産者価格をベースとした場合。生産量は汎用レタスマーケット全体の2.3%程度の見通し)。植物工場での栽培が定着している汎用リーフレタスでさえ、ようやく100億円を超える程度の規模に過ぎないのが現状です。市場飽和の兆候が見える中、中途半端な戦略では低価格化の波に飲み込まれることは避けられないでしょう。

 このような市場環境下で、(1)事業規模を大幅に拡大・単一品目大量生産を実現しコスト競争力を高めるか、(2)露地栽培品との差別化を図りやすい高付加価値商品へシフトするか、取るべき戦略は2択です。特に注目が高いのが、(2)の高付加価値マーケットです。高付加価値商品では、有機野菜、高糖度野菜、伝統野菜などが代表的ですが、最近は機能性表示が開始されたことから機能性野菜への関心の高まりや、本来日本の気候では育ちにくいヨーロッパ野菜・果実等を求める声が聞こえてきています。価格についても、汎用野菜と比較し120~180%程度高値で売れており、特に異業種からの参入でストーリー性を打ち出したい企業にとっては、魅力的なマーケットとなっています。

 ただ、高付加価値商品は、汎用的な商品と比較し市場規模が小さいため、単一品目で採算性を確保することは非常に困難です。高付加価値マーケットで採算性を確保するには、ターゲットとする商圏における需要、導入する技術の強み、既存事業との親和性等と合致する品目を複数選定した上で、実際のニーズに合わせて栽培品目の種類・生産量を柔軟に変更していく体制が不可欠になります。他方、1棟で複数品目を日産2000~3000株(もしくは年間数十トン)単位で生産するポートフォリオ設計が前提となるこの戦略は、ライン単位で栽培品目に応じた制御が可能な植物工場の設備ポテンシャルを活かせる選択でもあると言えます。

 これまでの植物工場は汎用野菜を1~2品目を生産するだけという、植物工場の高い設備ポテンシャルを活かせていないケースも多く玉石混交でした。これからの植物工場ビジネスは、大規模化か高付加価値化という明確な戦略に徹することで、「儲かるビジネス」として成立させることができるでしょう。

この連載のバックナンバーはこちらよりご覧いただけます。


※執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
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