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日本総研ニュースレター 2016年3月号

高齢者・自治体・企業に「三方よし」のギャップシニア市場創出に向けて

2016年03月01日 岡元真希子


これからのシニア市場の主戦場はギャップシニア
 シニア市場は、人口減少社会に転じた日本で唯一拡大が見込める市場として、多くの企業の期待を集めている。1990年以前、「シルバービジネス」として最初に注目されたのは介護周辺市場だが、対象となる要介護者は約570万人と、限定的だ。次に注目されたのはアクティブシニア市場だが、元気な高齢者の消費性向は一般消費者と大きくは変わらず、シニア市場として一括りにして取り組むべきものではないことが分かってきた。
 実は、注目すべきはそれらの中間にある市場だ。それは、加齢や病気により心身機能の低下が始まっている高齢者(ギャップシニア)向けのビジネスだ。
 高齢者の約4割にあたる1200万人に上ると見られるギャップシニアは、介護は不要だが、家事などの一部が不自由になってきている。要介護者向けの商品・サービスが役に立ち得る生活場面もあるが、「まだ手助けを必要としていない」と感じているシニアには受け入れづらく、市場としての難しさの原因の一つとなっている。また、介護事業者を通じて把握できる要介護者や一般消費者に近いアクティブシニアに比べて、狭間にいるギャップシニアは企業が接点を持ちにくく、ニーズに合った商品・サービスの開発や販売チャネルの開拓は遅れがちだ。

ギャップシニアは地方自治体が捕捉
 ギャップシニアは、企業にとっては「顔が見えづらい」位置にあるが、地方自治体ではギャップシニアを要介護化リスクが高い高齢者として把握している。高齢住民の要介護化を予防することは、介護保険者である地方自治体の責務だからだ。このため、地方自治体では把握したギャップシニアを対象に、認知機能や筋力の向上などを目的とした介護予防事業を実施している。しかしそれらへの参加率は全体の8.1%(平成26年度)にとどまる。
 公的財源による介護予防事業で提供できるサービスは、最小限のコストでなるべく多くの人が参加できる最大公約数的な内容になりがちで、個々人の嗜好は後回しにされる。今後、団塊世代がギャップシニアになり、「高くても良いもの」など嗜好の多様化が進むと、地方自治体が実施する介護予防事業だけでは、十分な種類のサービスを提供しきれないことが予想される。
 要介護者向けのサービスは、介護保険法に定められている通り「自立した日常生活を営むことができるように」設計されており、法定のサービスでニーズがカバーできる部分が大きい。しかし、その手前のギャップシニア向けのサービスは、個人の価値観やライフスタイルに沿ったものでないと受け入れられづらいということもあり、民間によるサービス開発に期待がかかっている。

地方自治体側は、民間によるサービス拡充に期待
 そうしたなか、複数の民間事業者による多彩な介護予防サービスを活用し始める自治体も現れている。例えば埼玉県和光市では、ギャップシニアコンソーシアム(日本総研主催)の一員である㈱ダスキンと公民連携協定を締結して、本年1月から市内中心部に生活支援拠点を設置して実証実験が始まった。
 ギャップシニアは、「年だから仕方ない」と諦めてしまう傾向があるため、生活のなかで困っていることや、我慢していることなどをなかなか話してくれない。そのため、拠点では職員による相談や体験型のイベントを通じ、シニアが困りごとや本音を語る糸口となる、「そういうこと、私もあるわ」と共感できるエピソードを蓄積しながら、接客に役立てる手法の開発を行っている。本音が明らかになったところで、必要に応じて、困りごとを解消したり、理想の暮らしの実現に近づけたりするための商品やサービスを提案している。
 さらに、拠点では、新商品開発やプロモーションに活用する取り組みも開始した。例えば、歯が弱くなったり、唾液が減少して飲み込みづらくなってきているシニアにとって、味の面と食べやすさの両面のニーズを満たすような食品の試作品テストをしたり、接客の際の自然な会話から、シニアの関心が高い話題やキーワードを抽出してプロモーションにつなげたりするといった取り組みだ。

 自治体の公平性の観点から、特定の民間企業に利する連携は難しいという従来の常識だが、和光市の場合、複数の事業者による事業体として公民連携が実現した。こうした公民連携は、今後、ギャップシニアの価値観や生活様式の多様化に対応できる豊富なサービスで市民のQOLを高めたい地方自治体と、大きな成長が見込める市場を手に入れたい民間事業者との思惑を一致させられるモデルとして、多くの地方自治体で展開していくべきだ。


※執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
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