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【シニア】
第10回 いま注目するギャップシニア向けサービス(2)公文教育研究会 学習療法センターの「脳の健康教室」

2016年06月14日 岡元真希子


 シニア向けの商品・サービスを開発している企業からは、ギャップシニアが「見えにくい」ということもあって、なかなかそこにフィットした商品やサービスが生まれにくい状況にありますが、優れたサービスを提供している企業もあります。今回は、ギャップシニアも利用するサービスのひとつとして、公文教育研究会学習療法センターの「脳の健康教室」を紹介します。
 「周りの人から『いつも同じ事を聞く』などの物忘れがあると言われる」という人は、ギャップシニアの28.0%に、アクティブシニアであっても12.4%に上ります。ギャップシニアにとって、認知症の予防は、体の健康と同じぐらい大きな関心事であり、大きな市場が広がっているといえます。
 老人性認知症の症状として、コミュニケーションに障害が生じたり、感情のコントロールが困難になったり、身の回りのことが自分でしづらくなったりするといった状況が発生します。これらの症状をつかさどっているのが、脳の前頭前野という領域であり、この前頭前野を鍛えることが、認知症の改善・進行抑制、予防につながると考えられます。このような視点から研究を進めたところ、音読・簡単な計算・コミュニケーションをすることが、前頭前野の活性化につながることが明らかになりました。この研究成果をもとに、認知症の改善・進行抑制のための「学習療法」と、認知症の予防のための「脳の健康教室」という二つのサービスパッケージが生まれました。前者が主に要介護高齢者向け、後者が主にギャップシニアならびにアクティブシニア向けのサービスパッケージであるといえます。
 これまでのメールマガジンで紹介したギャップシニア向けのサービスも、それだけを単体で開発したものではなく、要介護高齢者向けのサービスを出発点として、ギャップシニアにも広げていったという事例が多いのも特徴でした。「脳の健康教室」も同じように、認知症高齢者を対象にした脳科学の研究成果を、ギャップシニアやアクティブシニアへのサービスへと転用しています。

 具体的なプログラムの内容は、週1回の約30分の教室参加と、毎日実施する自宅学習の教材から構成され、1クールは5~6カ月間に設定されています。教室では、教室サポーター1名に対して、受講者2名が相対して、音読しながらの読み書き、計算教材、ならびに「すうじ盤」という教具を使って学習を行います。脳の活性化につながる音読と簡単な計算は自宅用の教材でもできますが、コミュニケーションは教室での重要な要素です。教室サポーターは、「すうじ盤」が早く終わった時は共に喜び、自宅学習が充分にできなかった時は心配して声をかけてくれます。そうでなくても顔見知りの関係のなかで「先週夫が庭で転んで大変だったのよ……」といった話を自ら切り出すこともできます。ギャップシニアにとってコミュニケーションは重要ですが、例えば高齢者向けのサロンのように「コミュニケーションのみ」の場所となると、特に世間話が得意ではない男性にとってはなかなか参加しづらいのが実態です。しかし、脳の健康教室というパッケージの一部として、コミュニケーションが組み込まれていることが、男性も通いやすい要因になっているようです。
 「脳の健康教室」は、全国の約1割の市区町村で行われており、地方自治体による介護予防のための事業として実施されているほか、ボランティア団体や介護事業者が主催するものもあります。自治体から利用補助が出る場合もありますが、教材費・運営費を全額利用者が自己負担している地域もあります。

 認知症高齢者を対象とした脳科学研究というエビデンスと蓄積をもとに、ギャップシニアの関心事である認知症予防のニーズを巧みに捉えた優れたコンテンツであると言えるでしょう。

この連載のバックナンバーはこちらよりご覧いただけます。


※執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
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