日本総研ニュースレター 2016年1月号
Post-FITに向けた再生可能エネルギーの事業モデル転換
2016年01月04日 瀧口信一郎
官製市場であるFITの問題点
2015年7月、政府は2030年時点を目途とした日本全体の発電設備構成を示すエネルギーミックスの方針を発表した。新しい方針では、原子力発電は再稼働を前提として20~22%の割合とさせ、再エネも国内自給率向上とCO2排出量削減の観点から22~24%に増加させる。特に再エネのうち、水力発電を除いた部分については現在の約2%(2013年度時点の数値)から約13~14%へと10%強もの増加を見込む内容だ。
今後は、国民全体のコスト負担を押さえながら、エネルギーシステムの転換を図ることになる。しかしそのなかで、メガソーラーの急増が問題となっている。
特に問題なのは、再エネには電圧・周波数変動制御が課されていないことだ。メガソーラーの新設を支える再エネ特措法(固定価格買取制度)では、再エネの送配電網へ接続義務(優先接続)が電力会社に課される一方、再エネ発電事業者には電圧と周波数の調整義務を課さない優先給電が実質的に認められてきた。しかし、そうした再エネを受け取る電力会社には電圧と周波数の調整にコストがかかり、他の発電の安定稼働にも影響を与えてしまう。当然、現状での再エネの急増は電力会社にとって看過し難いものだ。
再エネ発電事業者に上記のような優先給電を認めたことは、CO2削減にもつながる再エネを早期拡大するために、一時的には合理的だった。固定価格買取制度以前は、変動の大きな電源を送配電網に接続する際の厳格な制約が、再エネ普及の妨げになっていたからだ。しかし、官製市場である固定価格買取制度のインセンティブを重視しすぎれば、将来的には電力会社が調整負担を放棄し、再エネ発電事業者に転身することもあり得る。ドイツの火力発電は、固定価格買取制度における再エネの優遇によって稼働率が低下したうえ、再エネ調整のための高コスト運転の比率が高まり、競争力が失われた。既に火力発電からの撤退を検討し始める電力会社も現れている。
2016年4月に予定される電力小売全面自由化が目指すのは、電力業界の競争の加速だ。再エネが盛んになるのは良いが、調整負担を負う小売事業者が割を食うようでは自由な市場は成り立たない。
責任ある再エネに向けた新たな事業モデル
再エネが電力システムに不可欠な構成要素としての地位を確立するには、火力発電のように変動制御を仕組み化し、責任ある電源としての事業モデルへの転換が必要となる。
その場合、再エネ発電事業者には、(1)一括マネジメント事業、(2)再エネ調整型PPS事業、(3)地域グリッド事業の3つのモデルが考えられる。
(1)は、一括マネジメント会社が複数の発電事業者から電力を集め、電圧と周波数を調整したうえで送配電を行う電力会社に電力を販売する発電型モデルだ。
現在、火力発電を中心とした独立系発電事業者(IPP)には、電圧・周波数変動制御において厳しい制約がかけられている。その制約を再エネ発電所に課す場合、多くの蓄電池が必要となり、コストが高騰する。また本来、変動制御は巨大な電力のプールである広域の送配電網全体で行う方が効率が良く、一つ一つの再エネ発電所がそれぞれ調整するのは非効率だ。(1)のモデルでは、各再エネ発電所に求められる制約要件を適正水準まで緩和できる。
(2)は、特定規模電気事業者(PPS)として発電と小売りを行い、電力会社には送配電のみを依頼するモデルだ。小売りも担うPPSの責任で発電するため、発電の無秩序な拡大も防げる。今のところ小型のPPSには再エネの調整負担を免除する特例措置が取られているが、これを改めてPPSには火力も併用しながら電圧と周波数の調整を自ら行い、責任ある調整を求める方式となる。
また、一定のエリアに限定して発電と小売りを担い、自ら需給バランスを取る(3)地域グリッドモデルも考えられる。配電網に手を加える必要もあるが、中小の事業者にも地域レベルでの需給バランスの制御は可能であり、また、万が一の際には当該エリア内での電力供給を担保できる。
(1)~(3)のうち、発電側の自主性を確保しながら自ら変動制御を行う(1)は、投資負担を抑えながら再エネの伸長を後押しできる現実的な解決策として特に有効だ。今後の再エネ普及の重要なプレイヤーとして拡大が望まれる。
※執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。