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データから見えてきたギャップシニアの実態とは

2015年10月27日 岡元真希子


 ギャップシニアコンソーシアムでは、19の自治体の協力を得て、約148万人の高齢者を代表する約13万件のパネルデータを構築した。高齢者の生活実態にこの規模で迫るパネルデータは、これまで滅多になかった。この中には、元気な高齢者、要介護の手前のギャップシニア、要介護認定を受けている高齢者などの標本が含まれ、さまざまな分析が可能であるが、このうち今回は、ギャップシニアに相当するデータを対象に、その生活の実態を見てみたい。
 まず、ギャップシニアの世帯類型は、子などと同居している世帯が約43%、一人暮らしが約20%、高齢夫婦世帯が約35%となった。ひとくちにギャップシニアと言っても、比較的元気で身の回りのことはすべて自分でできる一人暮らしの層、夫婦で支え合いながら暮らしている層から、子などの支援を受けながら生活しているやや重度の層など多様な高齢者が含まれている。ただし、年齢によって差異があり、84歳以下のギャップシニアでは、子などと同居している割合が約41%であるのに対し、85歳以上では約59%に上る。85歳以上の層では、当然、施設等で生活している高齢者の割合が高いことが想像されるが、要介護の手前であっても子供などの手が必要になってくる傾向を物語っている。

 次に、要介護状態に陥る「リスク」について見てみたい。ギャップシニアは、要介護に陥る可能性としてなんらかのリスクを抱えている。リスクの内容としては、やせ気味の人がさらに体重減少する「低栄養」、外出が週1回未満の「閉じこもり」、物忘れなどがある「認知機能低下」、手すりなどが必要な「運動器リスク」、むせたり飲み込みづらかったりする「口腔リスク」などがある。さらに日本総合研究所では、趣味のグループや地域活動などにまったく参加していない人を「交流なし」としてリスクの一つとして注目している。
 パネルデータからは、大部分のギャップシニアは、複数のリスクを同時に抱えていることが分かる。例えば、「認知機能低下かつ交流なし」「運動器と口腔」といった組み合わせである。これについて日本総合研究所では重度化する危険性や介護予防のアプローチなどの観点から、下図のとおり排他的な8つのリスク類型を作成した。図の見方としては「○」印が当該リスクに該当、「×」が非該当、「―」はリスクの有無を問わない。例えば、「認知機能低下タイプ」の人は、低栄養・閉じこもりのリスクはなく、認知機能の低下リスクに該当するが、その他のリスクについては、該当・非該当の両方も含むので、「認知機能リスクに加えて運動器リスクもある」人も「認知機能リスクだけでその他のリスクはすべて非該当」の人も含むことを意味する。
 このリスク類型を年齢階層別で見ると、すべての階層で「認知機能低下タイプ」が最も多く、半数近くに上る。年齢階層別に違いが現れるのが、「口腔機能低下タイプ」と「閉じこもりタイプ」であり、「口腔機能低下タイプ」は高年齢層ほど比率が低くなり、「閉じこもりタイプ」は高年齢層ほど比率が高くなる。

 最後に、ギャップシニアの生活上の課題を見てみたい。ギャップシニアのうち2割以上が、「バスや電車、マイカーで一人で外出することは難しい」と回答しており、この割合は元気高齢者の2.4%と比べて約10倍である。一方で、日用品の買い物については、バスや電車を使わず身近な地域で買い物をするなどをしているためか、できないという人は約15%である。食事の支度については、元気高齢者でも自分ではできないという人が約9%であるのに対し、ギャップシニアでは約17%である。
 このことから、元気高齢者とギャップシニアの大きな違いは、「一人で公共交通機関やマイカーを運転して外出するかどうか」というあたりが分かれ目になっている可能性が高い。ギャップシニアの事例研究から、75歳を超えて子どもなどに心配されて運転免許を返上したことをきっかけに、外出が減って交流が減ったり、家に閉じこもりがちになったりしたというケースもあった。また、全国パネルデータを分析すると、閉じこもりリスクの該当者は、認知機能障害の度合いやうつリスクも高いという傾向も見られる。これらのことから、ギャップシニアにとって、外出をいかに確保するかということが要介護状態に陥らないために重要な要素になってくるといえるだろう。
ギャップシニアコンソーシアムでは、ギャップシニアへの外出の機会や方法の提案も含めて今後も事業検討を進めていきたい。




※執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
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