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アジア・マンスリー 2015年6月号

【トピックス】
2015~16年の中国経済見通し

2015年05月29日 関辰一


中国経済は不動産開発投資と製造業の固定資産投資のスローダウンを主因に減速。今後、政策効果が顕在化し、景気の減速ペースは緩やかと見込まれるものの、状況次第では大幅に下振れるおそれも。

■景気は減速
2015年1~3月期の中国の実質GDP成長率は前年同期比+7.0%と6年ぶりの低い伸びとなった。需要項目別の寄与度をみると、最終消費は+4.5%ポイント、総資本形成は+1.2%ポイント、純輸出は+1.3%ポイントとなり、2014年通年対比最終消費が+0.7%ポイント、純輸出が+1.3%ポイント高まる一方、総資本形成が▲2.4%ポイントと下押し要因となった。

とりわけ、不動産開発投資のスローダウンが顕著である。2013年、当局は住宅価格の上昇に歯止めをかけ、不動産開発投資に依存した経済成長から脱却するために、キャピタルゲイン課税強化など一連の不動産価格抑制策を打ち出したことから、2014年に入ると、家計の住宅価格の上昇期待は弱まり、住宅需要は全国ベースで減少した。その結果、不動産開発企業が抱える住宅在庫の過剰感が強まり、2015年1~4月の不動産開発投資は前年同期比+6.0%と2014年通年の前年比+10.5%から大幅にスローダウンした。

加えて、製造業の固定資産投資の増勢鈍化にも歯止めがかかっていない。製造業全般で過剰設備が問題となるなか、当局は設備投資を資金面から抑制してきた。一方で、設備投資のスローダウンは生産能力の抑制に加えて、需要の伸び悩みを招いており、その結果、企業収益が悪化し、企業の資金繰りはリーマン・ショック時より厳しい状況に陥っている。こうしたなか、1~4月の製造業の固定資産投資の伸び率は前年同期比+9.9%と2014年の前年比+13.5%から鈍化した。

企業部門を中心に需要が弱まるなか、1~3月期のGDPデフレーターは前年同期比▲1.2%と6年ぶりにマイナスに転じた。

足元では、輸出と個人消費の先行き不透明感も強まっている。4月の人民元ベースの輸出額は人件費の上昇などを背景に前年同月比▲6.2%減少した。住宅と合わせて購入される傾向がある乗用車の販売台数は同+3.7%と2014年通年の+9.9%から減速した。

■メインシナリオ
今後を展望すると、景気は引き続き減速するものの、そのペースは緩やかにとどまるとみられる。当局は、構造調整を重視して過剰投資・過剰債務の解消を図りつつ、景気失速も警戒しており、以下のような景気てこ入れ策を講じている。年後半に、こうした政策効果が顕在化し、固定資産投資の減速ペースは緩やかなものにコントロールされると見込まれる。

具体的な景気てこ入れ策として、第1に金融緩和があげられる。中国人民銀行は、2014年11月、2015年3月、5月に利下げ、2月と4月に預金準備率の引き下げを相次ぎ実施した。第2に、インフラ投資の加速である。政府は2014年後半から2016年までに実施する400件の投資プロジェクトのうち総額7兆元にのぼる300件の案件を承認し、地方政府にインフラ投資を促進している。また、全人代では政府財政バランスの赤字拡大を容認した。第3に、不動産市場の底割れ回避にも取り組んでいる。2014年春頃から、中央政府は地方政府の住宅購入規制の緩和を黙認しているほか、住宅ローンに対する規制を緩めるなど、不動産市場抑制策を緩和方向に微修正している。景気減速が持続するなか、先行きも、金融・財政の両面から追加の景気てこ入れ策の導入が見込まれる。

■リスクシナリオ
他方、政策効果が想定ほど出ない可能性にも留意する必要がある。第1に、資本ストック調整が本格化する可能性がある。これまで、中国では野放図な設備投資が慢性的に行われてきた。投資が投資を呼ぶ状況が続き、2013年の固定資本形成の名目GDPに占める割合は日本のピーク(1973年、36.4%)をはるかに凌駕する45.9%となっており、過剰設備の問題が深刻化している。高成長が終焉を迎えるのに伴い、投資の抑制が需要の減退を招き、投資が投資を呼ぶ状況が逆回転する、いわゆる資本ストック調整の動きが本格化すると、金融を緩和しても設備投資の回復は期待できなくなってくる。企業は、設備稼働率が大きく低下しているために、新たな設備増強には慎重になるからである。設備稼働率は不透明ながら、足元の経済指標などを踏まえると、本格的な資本ストック調整が始まった可能性も否定できない。

第2に、「バランスシート不況」に陥るおそれもある。これまで、中国企業は低金利下で積極的に資金を調達する一方で、かなりの資金を財テクに投じてきたとみられる(詳しくは「限界に向かう中国の企業債務拡大」日本総合研究所『環太平洋ビジネス情報RIM』2015 Vol.15 No.57を参照)。日本では、金融引き締めや総量規制などにより1990年に入り株式や土地の価格が下落に転じると、投機的な需要の減退、手じまいの動きから、株式と土地の価格は下落し続けた。こうしたなか、企業は過大な債務と資産の目減りへの対応から、バランスシート調整を余儀なくされ、その結果、債務返済を優先する一方、設備投資需要は縮小し、日本は深刻な「バランスシート不況」に陥った。中国でも企業の資産と債務は急速に拡大しており、2014年9月末における企業債務残高の対GDP比は151.6%と1989年末の日本の132.2%を上回っている。こうしたなか、企業のバランスシート調整のリスクには留意する必要がある。

以上より、メインシナリオとして、景気てこ入れ策が一定の効果を発揮し、2015年の実質GDP成長率は+6.9%、2016年は+6.8%と政府目標である+7.0%を小幅に下回ると見込まれるものの、状況次第で大幅な下振れもあり得ることに留意しなければならない。
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