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日本総研ニュースレター 2012年4月号

「普通の」ビジネス化が進むエネルギー・環境分野で変わる情報収集

2012年04月02日 佐々木努


情報リテラシーは、エネルギー・環境分野の競争力の源泉
 政策や技術によって需要が創造される側面が強いエネルギー・環境分野のビジネスにおいて、それらの情報を収集し活用する「情報リテラシー」が、企業の競争力に与える影響は非常に大きい。
 情報リテラシーの高さは、収集する情報量と、自社のビジネスに関連する情報を的確に集める力の組み合わせで決まる。エネルギー・環境分野の新規参入者が、比較的楽観的な計画を立ててしまうことがあるが、こうした情報リテラシーのバランスの悪さに原因があるケースが少なくない。
 例えば、ある企業では、再生可能エネルギー発電分野に新規参入する際に、参入障壁の検討のために電力事業改革の政策情報の収集に注力した一方、省エネ施策や他のエネルギー分野の動向の把握は手薄であった。そのため、競合となる発電方法の存在が見えずに自社技術を過信し、さらに市場規模予測も甘いまま事業計画を推進し始めた。結局、それに気付くまでの間、実証試験に費やした資金と時間の一部を無駄にしてしまったのである。

需要家視点という情報リテラシーが競争の鍵を握る
 震災以降、特にエネルギー分野では、政策や企業の動きが活発化し、情報量が急増している。また、これまで実態がつかみにくかった発電コストや売電価格などの情報も容易に入手できるようになった。こうした多彩で大量の情報の収集方針から具体的な活用方法までをマネジメントする専門人材の育成は、どの企業でも急務といえる状況にある。
 ただし、人材育成以上に重要なのは、情報リテラシーの概念を拡張してとらえ、運用することができるかどうかにある。国の計画に沿ってエネルギーの調達・供給を行う旧来からのビジネスであれば、供給側の事情に精通した専門人材がいれば十分成立できた。しかし、最近ではスマートハウスをはじめとした、需要家の意向も反映されるビジネスの比重が高くなってきたため、企業は需要家を理解することにも注力しなければならなくなってきた。供給側視点のビジネスに慣れ切った既存企業は、特に留意が欠かせない。
 例えば、家庭向けの蓄電池を販売するビジネスの場合、官民で作り上げた導入目標量に沿って販売計画を立てていた従来は、需要量の変動要因といえば補助金などの普及促進策ぐらいであった。従って、こうした政策の動きをいち早く収集することが、情報収集の要諦であった。
 しかし、現在では需要量を事前に想定することは難しくなった。エネルギーに関する需要家の意識と知識が向上したことで、災害時の安全性、再生エネルギー発電の売電量の確保、電力料金の値上げ対策など、個々のニーズの違いが顕在化し、購買パターンが読めなくなったからである。「補助金があるから購入がお得」という訴求方法だけでは購買につながらない需要家が出現し始めたのである。
 つまり、蓄電池という機器やそれを取り巻く政策だけでなく、需要家の意向まで理解しなければ、蓄電池の販売ビジネスは成立しなくなった。同じビジネスでも、従来と今後では必要な情報の内容が異なるのである。エネルギー・環境分野のビジネスは、専門家による一方的なビジネスから、顧客の声に対応するという「普通の」ビジネスへと変わりつつあるのである。

新しい情報リテラシーを盛り込んだ組織体制に
 専門性の高い情報収集を得意としてきたエネルギー・環境分野の企業は、需要家が主導権を握る新しいビジネス環境への対応に当面苦慮することが多いと思われる。
 しかし、需要家視点の情報は特別なものではなく、意識を持って探せばいくらでも見つけることができる。ただし、供給側に偏ったものの見方から抜け出す意識改革と、情報収集と活用を組織的に行う改革が不可欠となる。
 あるエネルギー企業では、営業や企画、環境など様々な部署が定期的に一堂に会し、政策動向や他社事例に加え、需要家に関する調査結果を共有している。専門性と需要家視点のそれぞれのリテラシーに長けた部署が情報を持ち寄ってディスカッションを行い、互いにバランスの取れた視点を得ることが目的である。顧客に対し、自社サービスの内容を顧客の立場も考慮に入れながら客観的に伝えられるようになり、一層の信頼を獲得しているという。
 次世代のエネルギー・環境の世界を勝ち抜くためには、専門性と需要家視点という2つの情報リテラシーを高め、「『普通の』ビジネスを行う企業」を実現しなければならないのである。


※執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
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