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日本総研ニュースレター 2011年5月号

BOPビジネス立ち上げに必要な観点
~ビジネスに開発効果をいかに組み込むか~

2011年05月02日 渡辺珠子


高まるBOPビジネスへの関心
 昨年、日本企業のBOP(Base of the Pyramid)ビジネス(*)への取り組みを強力に後押しする制度が、国際協力機構(JICA)から打ち出された。「BOPビジネス連携促進制度」(以下、促進制度)と呼ばれるこの制度では、BOPビジネスへの参画を検討する企業やNGOに対し、調査費用として最大5,000万円(3年間)をJICAが負担する。近年、JICAは民間企業との連携に力を入れているが、その背景には、ODA予算の縮小が続くなかで援助の効果や効率性を維持向上させるためだけでなく、国民に対してODAは「日本の経済に資する」ものである、との評価を得たい思惑がある。
 一方、民間企業では、新興国戦略や新規事業戦略といった、将来にわたるグローバルな収益基盤形成の一環としてBOPビジネスに期待している。ただし、アジア・アフリカ諸国のBOP市場は情報が少なく、参入方法も不明瞭であるため、簡単に投資できる分野ではない。調査費用を一部負担する促進制度は、BOP市場参入を検討する企業には「渡りに船」であり、実際、促進制度には198法人から関心表明が寄せられるなど、本ビジネスへの高い期待がうかがえる。

BOP市場特有の課題に戸惑い
 BOPビジネスへの参入を果たしても、所得の低い人々が主な顧客であるという性質上、短期間で収益を上げることは難しく、5年、10年といった中長期の視点で取り組む覚悟が必要である。そして、BOPビジネスで最も難しいのは、貧困削減等の「開発効果」を生み出す観点を、ビジネスモデルに組み込まなければならない点にある。
 新興国や途上国が経済や社会を安定させるために欠かせない、国の基盤整備におけるハードとソフト両面での諸問題は、一般に「開発課題」と呼ばれる。促進制度では、保健・衛生・医療、教育・職業訓練、農業・農村開発、自然環境保全など12分野を開発課題として挙げている。
 「開発効果」とは、これらの開発課題を解決するために実施した事業のインパクトを意味する。つまり、事業の実施によってBOP層の開発課題を解消し、同時に彼らに経済的便益をもたらすことで、開発効果を生み出すとされる。この開発効果というある種の社会性・公共性と、利益追求という事業性の両立は困難が伴うが、特にJICAの制度の支援を受ける企業には必須であるため、関係者からは戸惑いの声が上がる。

開発効果を生み出すことがBOP市場浸透の鍵
 実際、製品やサービスといった事業主体の特性だけに依存していては、開発効果を十分に得ることは難しい。特に事業性の確保には、ダイナミックに開発効果を生み出す視点が欠かせない。
 例えば、「乳幼児の栄養状態の改善」という開発効果は、「乳幼児の栄養失調」という開発課題に対する効果である。この場合、例えば栄養食品は、顧客であるBOP層にとって大いに魅力を感じる商品といえる。
 一方、企業側から見れば、栄養食品への需要が確認されたとしても、BOP層が購入可能な価格で提供するには、大幅なコストダウンが必要となる場合が多い。製品自体のコストダウンには限りがあるため、解決策としては、宣伝や配達を地元女性に任せたり、サプライチェーンの他の部分もBOP層に任せたりすることなども検討する必要がある。
 ただしBOP層は教育水準が低いことが多いため、サプライチェーンに取り込むにはトレーニングが必要となる。企業にとってはコストとなるが、BOP層からみれば、所得向上やスキルアップの機会の獲得である。つまり、栄養食品の宣伝および販売員としてのトレーニングも、結果として他の開発課題を解決する能力向上につながる。栄養失調改善とは別の開発課題の解決にもリンクし、より大きな開発効果を生み出すことができる。
 BOPビジネスでは、開発効果が大きいほど、BOP層に好意的に受け容れられ、かつ浸透するビジネスになる、という社会性と事業性の相乗効果の構造がある。開発効果を生み出し、これを波及させるモデルをビジネスに組み込むことで、収益確立に長期かかるというビジネス面での課題解決にもつながる。BOPビジネスでは、開発効果を生み出すことにこだわることが重要なのである。

(*)BOP層と呼ばれる年間所得3,000国際ドル(購買力平価)以下の層をターゲットにしたビジネスを目指す。


※執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
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