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日本総研ニュースレター 2011年2月号

サステナブルなブランドのつくり方
~従業員、NPO、生活者と向き合おう~

2011年02月01日 井上岳一


安易に「サステナビリティ」を謳うと火傷する
 環境や社会との共生を目指すサステナビリティ(持続可能性)の考え方が企業経営の現場にも浸透してきた。トヨタやパナソニック、三菱商事のような先進企業は、競争戦略やブランド戦略の観点から環境や社会に貢献する姿勢を明確に打ち出している。サステナビリティは、今や競争優位やブランド構築のための戦略要素になっているのである。
 しかし、ことブランドづくりに関していうと、サステナビリティは、実は非常に扱いにくいテーマである。「サステナブルな社会に貢献します」とお題目を掲げるのは簡単だが、それに見合う努力が欠けていたり、あまりにも「売らんかな」の姿勢が前面に出ていたり、目が届きにくい途上国で環境破壊につながる事業を展開していたりすれば、言っていることとやっていることが違うと糾弾されてしまうからである。実体がないのに環境への配慮を謳うことを“Greenwash(green[環境配慮] +whitewash[ごまかし]からなる造語)”というが、Greenwashは、粉飾決算同様、厳しい批判にさらされる。

サステナビリティを自分事(じぶんごと)として内面化する
 つまり、サステナブルなブランドを築くには、何よりも言行一致が求められるのである。Greenwashと批判されないような企業体質を確立するには、経営層がサステナビリティに対する確固たる信念と哲学を持つことはもちろん、一人ひとりの従業員がそれを理解・内面化することが重要になる。だが、それこそ「言うは易し」で、多くの企業の環境・CSR担当者が悩んでいるのも、実は社内の無理解なのである。
 この点で示唆に富むのが、世界最大の小売チェーン・ウォルマートで行われている“Personal Sustainability Project (PSP)”という取り組みであろう。PSPは、サステナビリティに対する従業員の理解を深め、自発的な行動を促すためのワークショップ型の啓発活動だが、ダイエットや禁煙、車の乗り合い通勤など、環境に優しく、かつ、自分の健康や幸せにつながる身近な活動にフォーカスしている点に特徴がある。これら身近な活動を“My Sustainability”として宣言し、実践してもらうことを通じて、従業員一人ひとりに自分事としてサステナビリティのことを考え、取り組むようになるきっかけを与えているのである。

NPOをメディアと捉え、積極的に関わる
 社内向けの活動に加え、対外的なコミュニケーション活動も重要だ。ただし、サステナブルなブランドづくりにおいては、従来の広告や広報のやり方は通用しないと思ったほうがいい。「うちの会社や商品はこんなに環境や社会のことを考えています」と自らの「正しさ」を広告や広報で訴えたところで、およそ説得力が出ないからである。「正しさ」は言葉ではなく態度で示すべきものだし、声高に自画自賛しても共感は得られない。それに「だから買ってね」という企業側の欲望が透けて見えてしまうと、やはり興ざめだ。従って、よほど綿密に表現の内容と方法を練り込まない限り、広告・広報に頼ったコミュニケーションは、生活者の心に届かない。
 であるならば、そこに費用をかけるより、例えばNPOと協働して現実の環境や社会の問題を解決するためにお金を使ったほうがよほど効果的である。実際、最近は、先進的な企業ほど積極的にNPOと関わるようになっている。企業と対照的な価値観を持ち、環境や社会のために活動するNPOと協働することは、企業姿勢を伝える手っ取り早い手段になると気付いているからである。サステナブルなブランドづくりにおいては、NPOにメディアとしての価値が宿るのである。

生活者の日常に寄り添う
 NPOとの協働は、市民社会への窓を開く。その先にあるのは、社会と共生する企業の姿だ。そして、そこに至るには、企業は、「客」ではない「生活者」と対等な関係で結ばれることが必要となる。商取引とは異なる「人間同士の関係」をどう築くか、そのセンスと能力が問われてくるのである。
 米国の家電量販店ベスト・バイがツイッター上で展開する “TWELPFORCE(“twitter+help+force”からなる造語。「ツイッターお助け隊」の意)”は、この点で示唆に富む。生活者の家電に関する疑問やつぶやきに、専門スタッフが競うように答える、ただそれだけのことが、「生活者の日常に寄り添う企業」という新しい企業の形を生んでいるからだ。
 生活者の日常に寄り添うことは、社会との共生を促すだろう。結局、目の前の生活者に寄り添える関係をつくることが、サステナブルなブランドへの近道なのである。


※執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
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