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【「CSV」で企業を視る】(2)CSVがもたらす企業への変化

2012年12月05日 ESGリサーチセンター、小島明子


 【「CSV」で企業を視る】シリーズの初回となる先月は、ポーターの「『共有価値』の創造:Creating Shared Value(CSV)」※1の考え方についてCSVの現状と投資判断への活用の可能性について解説をした。国内においても、自社のビジネスが『共有価値』を生み出しているということを現時点では自覚していなくとも、社会課題をビジネスチャンスに変え、“実際には『共有価値』を生み出している”、あるいは“その芽が出始めている”企業は確実に存在する可能性について言及をした。今回からは、国内企業の事例を中心にCSVの視点で解説をしていきたい。

(1)共有価値を意識した企業の出現
家庭用消臭芳香剤や、衣類の防虫剤などの製造で高いシェアを誇るエステーでは、国内企業のなかでも共有価値という考え方をいち早く取り入れている企業である。持続可能な未来に向けて、社会のニーズをいち早くキャッチし、強みである生活日用品の革新力を活かして、「共通価値」を創造することを方針として掲げている。
エステーは、終戦後、当時は高級品であった着物が虫喰いされるという問題を解消するために防虫剤の生産を始め、1946年に設立をされた会社である。1971年以降、日本は高度経済成長期に伴いマンションなどの集合住宅への居住が増え、密集化された環境に居住することによる問題を解消するための方策として、芳香剤や除湿剤を日本で初めて生産をした。2011年からは、環境汚染物質浄化剤の開発を行うなど、社会・環境課題の解決に向けた取組みにも積極的である。
エステーの共有価値とは、社会・環境課題に対し、強みである生活日用品の革新力を発揮することだと明確化されている。現在および将来のすべてのステークホルダーに対する「共通価値」を創造することが自社の持続的な成長へつながるという考えが前提となっている。人々が困っている課題に着目をし、自社の強みである「空気」というテーマでもって、その解決策となる製品を新しく提供し、現在まで成長をしてきたという歴史がポーターの言説を借りて再定義されている。
共有価値という視点は、企業にとって、今までの事業を通じて、自社が持っている強みを再認識し、今後の方向性を改めて考えるための1つのきっかけともなるのではないか。

(2)共有価値を生み出す市場
今後、新たに共有価値を生み出すためには、どのような社会課題に焦点を当てるべきだろうか。領域の1つとして、ここでは少子高齢化をあげよう。総務省によれば、日本においては、2015年には4人に1人が65歳以上の老年人口であると予測される。そのような中では、高齢者に対して介護や医療を提供すること、それらのサービスが効率的に提供されることが大きな課題となっている。2011年6月には、「介護サービスの基盤強化のための介護保険法等の一部を改正する法律」が公布され、高齢者が住み慣れた地域で、自立した生活を営めるよう、医療、介護、予防、住まい、生活支援サービスが切れ目なく提供される「地域包括ケアシステム」の実現が掲げられている。
スギホールディングスは、地域医療対応型ドラッグストアを展開する「スギ薬局」、登録販売者制度を活用する「ジャパン」に加え、地域医療連携を推進する「スギメディカル」の3つの柱に注力している。なかでも、「スギ薬局」と「スギメディカル」では、処方箋調剤や地域の医療関係者と連携した在宅医療を行っている。薬剤師が医師の処方せんに基づいて調剤・調製を行い、患者の自宅や介護関連施設に薬剤や点滴薬を届けるサービスのほか、年中無休で終末期における看取りなども行っている。2012年2月時点において、スギ薬局グループ全体で、在宅医療実施店舗数は110拠点に上り、訪問看護ステーションは、関東・中部・関西で10拠点である。2012年2月末時点までの売上高や処方箋応需枚数は、増加傾向であり、同社の介護関連の事業は、業績にも一部寄与していると考えられる。自社の事業の強みを生かし、地域医療、在宅医療という市場のなかで、薬局ならではのきめ細やかなサービスを提供し、共有価値を生み出している事例だと考えられる。
一方、日本で初めて「キャップ式広口哺乳器」を発売したピジョンは、育児用品のトップメーカーである。1975年には、育児用品のノウハウを活かして介護分野にも本格的に始めている。要介護者を対象にした介護ブランド「ハビナース」として食具やスキンケア、軽失禁ケア用品などを提供している。2007年には、高齢になっても元気に毎日活動をしていたいという高齢者、アクティブエイジを対象とした新ブランド「リクープ」を立ち上げた。尿もれケア用品や、歩行サポート、関節サポート、オーラルケア用品などを提供し、元気な高齢者がより活動的に生活をできるような商品の提案をしている。なかでも歩行サポートシューズは、傾斜でつまづきを防ぐ工夫や、歩行を安定させるために幅広のデザインになっているなど、転倒しやすい高齢者の特徴を踏まえて開発をされている。高齢化という問題から発生する課題に対して、予防や軽減という新たな視点で、自社の強みを活かし、共有価値を生み出している1つの事例だと考えられる。
企業が共有価値を生み出すために、統一されたメソッドはない。しかし、企業がそれぞれ持つ特有の強みを活かして参入できる市場のなかで、社会が抱える課題に対する解決に貢献できることがあれば、それは共有価値を生み出すための1つの入り口になるのではないか。
※1 Michael E. Porter, Mark R. Kramer, “Creating Shared Value:経済的価値と社会的価値を同時実現する共通価値の戦略,” DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー, June 2011.
参考資料:
総務省ホームページ
各社ホームページ、CSRレポート、有価証券報告書

*この原稿は2012年11月に金融情報ベンダーのQUICKに配信したものです。
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