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【ESG投資の注目点】電力料金上昇は「パルプ」「石化」などに打撃

2011年08月01日 ESGリサーチセンター、藤波匠


電力料金が上がりそうだ。東京電力による配電エリアでは、福島第1原子力発電所の事故における補償が発電コストを押し上げる。点検を終えた原子力発電所の再稼動ができず、2012年春にはすべての原子力発電所が停止する可能性が指摘されており、燃料価格高騰の影響も受けるとみられる。潤沢な電力供給を背景に成長を遂げてきたわが国の産業界にとって、1970年代のオイルショックに相当する試練に直面しているといえよう。

筆者の試算では、すべての原子力発電所が停止した場合、発電コストの上昇分をすべて転嫁すれば、電力料金は最大10%程度押し上げられる。この場合の産業界への影響を、さらに産業連関表を用いて試算した。結果は、産業別(190部門)の収益(粗付加価値額)に対する影響度(以下、影響度)が、非製造業を含む多くの業種で2%以下にとどまった。

デフレ経済下に国内企業の多くは、わずかな収益減も看過できない経営状況にはあろうが、10%程度の電力料金の上昇であれば、停電などで電力供給が不安定になるよりは影響は小さいと見ることもできる。

懸案となっている法人税率の引き下げや省エネ対策への補助金などの政策が導入されれば、収益のマイナス分は相殺できるレベルであろう。すでに各社が取り組んでいる節電対策により、影響度の小さな企業では、実質的な負担増はほとんど生じない可能性もある。

ただ素材産業を中心に、大幅な収益の悪化に直結する業種もある。影響度が5%以上という電力依存度の高い業種は「パルプ」「ソーダ工業」「脂肪族中間物・環式中間物」「石油化学基礎製品」の素材4業種に「と畜」を加えた計5業種である。これらの産業は、全製造業の国内生産額の3%を占めるに過ぎないものの、わが国の産業構造の土台を支える重要な産業だ。

影響度の大きい業種でも、より詳細に見れば企業によって電力価格への耐性に差異が出てくるだろう。影響度が大きい産業を中心に行政による省エネ対策支援が望まれるものの、何より企業自身による一層の省エネや、エネルギー消費構造の転換に向けた取り組みが不可欠といえる。

電力料金の値上がり要因は、原子力発電所の停止や燃料価格の高騰にとどまらない。原子力発電所の地震・津波対策への支出の増大は、東電以外の電力事業者でも避けられないだろう。再生可能エネルギーの導入に向けたフィードインタリフ(固定価格買い取り制度)も、さらなる電力料金の押し上げ要因になる。電力を含めたエネルギー価格に左右されにくい収益構造を構築できているかどうかは、投資判断の材料として今後一段と重みを増すのではないか。

*この原稿は2011年7月に金融情報ベンダーのQUICKに配信したものです。
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