コンサルティングサービス
経営コラム
経済・政策レポート
会社情報

経営コラム

オピニオン

【ESG投資の注目点】温暖化対策の軽視が日本経済に落とす影

2011年12月01日 ESGリサーチセンター、藤波匠


わが国では、地球温暖化防止に対する国民の関心が低下傾向にある。2020年に向けた次期温室効果ガス削減目標の国際的議論が遅々として進んでいないこともあるが、何よりわが国の特殊事情として、3月11日の東日本大震災の影響がある。震災以来、逼迫する電力需給への対応に追われ、化石燃料の消費拡大やむなしとの論調が根付き始めている。

しかし、温暖化対策の軽視や化石燃料の消費増大を安易に受け入れることは、わが国の国民生活や企業活動に、主に2つの面から暗い影を落とすことになるだろう。

第一に、化石燃料価格変動の影響にさらされることである。WTI原油先物価格は、2008年に一旦140ドル/バーレルに達した直後急落し、一時30ドル台を付けた。その後も激しく上げ下げを繰り返し、3.11の震災直後には、わが国の原発停止から化石燃料需要が高まるとみた買いが入り、110ドルを回復した。燃料調達コストの大幅な変動は、企業経営のリスク要因に他ならない。

しかも原油価格は、新興国需要の高まりから、中長期的には上昇圧力があるとみる向きが一般的である。化石燃料消費の抑制に努めなければ、ほぼ全量を輸入に頼るわが国にとって、輸入価格の上昇が国民経済に与える負の影響は計り知れない。温暖化対策軽視により予想される第二の問題点は、優れた省エネ技術や温室効果ガス排出 抑制技術の更なる革新を停滞させ、それらの国際マーケットでの競争力を低下させることである。わが国がエネルギー効率の高い国であるという認識は誤りではないが、それは一般的に言われる「乾いた雑巾を絞る」ほど、更なる効率向上が不可能なレベルに達しているわけではない。

わが国エネルギー消費の1割を占める物流部門を例にとって考えてみよう。物流量は、リーマンショック前まで経済成長に合わせて増加傾向にあったが、それでも燃料(ガソリンと軽油)消費は、景気が拡大していた2007年度までに1996年度のピーク時から17%減少した。それだけ輸送効率が高まっているのである。

物流事業者は、トラックの低燃費化はもちろん、物流システム自体を効率化し、経営リスクとなりやすいエネルギー消費の抑制に配慮してきた。こうしたことから、いまだ削減余地はあると考えられ、リーマンショックにより大きく落ち込んだ物流量が回復基調となっても、効率改善の取り組みを続けることで、今後10年で1割程度の燃料消費削減が可能と推計される。

国際的にも、化石燃料の価格上昇に伴い、今後省エネにかかわる技術や商品、ノウハウに対するニーズの高まりが本格化することが予想される。今月ホノルルで開催されたAPECでも、省エネへの取り組み強化が合意され、その合意文書ホノルル宣言には2035年までにエネルギー効率を45%改善することが明記された。

ところが、国内に温暖化対策や省エネを軽視する風潮が蔓延すれば、物流部門に限らず、あらゆる産業分野で技術革新や事業者によるエネルギー効率の改善に向けた動きは停滞し、関連分野での国際競争力の低下が懸念される。

資源輸入国であるわが国の産業や企業が、投資対象として世界的に高い評価を獲得し続けるためにも、エネルギー消費削減の流れを加速させ、世界に先駆けて化石燃料価格の影響を受けにくい企業体質、産業構造を構築するとともに、今後も省エネや温室効果ガス排出抑制の技術分野でトップランナーとしての地位を確固たるものにする努力が必要である。


*この原稿は2011年11月に金融情報ベンダーのQUICKに配信したものです。
経営コラム
経営コラム一覧
オピニオン
日本総研ニュースレター
先端技術リサーチ
カテゴリー別

業務別

産業別


YouTube

レポートに関する
お問い合わせ