要約
- 欧米諸国の債務問題がクローズ・アップされるなか、わが国は、国債残高の規模が諸外国対比で突出して大きいにもかかわらず、先行きの財政運営に対する危機感に乏しい面がある。その背景には、低金利での国債発行が長年にわたり可能であった、という事実がある。そこで、わが国の安定的な財政運営が今後どの程度持続可能なのかを探るために、①国債の調達構造、②国債の消化構造、③国債利払費の今後の見通しと財政運営への影響、の三つの側面から分析を行った。
- まず、国債の調達構造の面からみると、これまで国債の安定消化を続けてきた半面、調達年限の短期化傾向が著しい。このような資金調達構造は、イールド・カーブが順イールドの形状である限り、利払費を節減できる一方で、国債の償還・借り換えの頻度が上がり、先行きの金利変動の影響を受けやすいことになる。諸外国と比較すると、わが国の毎年度の所要資金調達額の規模(名目GDP比)は5割強と、突出して高い状況にある。
- 次に、国債の消化構造の面からみると、これまでは、潤沢な貯蓄を背景に、国内資金による消化が全体の9割超を占め、国債の安定的な消化を下支えしてきた。しかしながら、今後は、高齢化が一段と進展するなかで、家計の貯蓄余剰幅の縮小が避けられない。一方で、国債の大幅増発が継続することになれば、円滑な消化が難しくなる恐れがあり、わが国の国債ファイナンス環境は時間の経過とともに厳しくなるとみておく必要がある。
- 国債の利払費の推移をみると、近年、過去の高金利での調達を足許の低金利で借り換える構図となってきたことから、国債残高の累増にもかかわらず、利払費の抑制が続いてきた。しかしながら、こうした借換効果はすでに剥落しつつあるため、今後は、利払費が増加基調を強めることが避けられない情勢にある。
- 今後の国債利払費について、財務省の『国債整理基金の資金繰り状況等についての仮定計算』を手がかりに、一定の前提のもとで試算を行ったところ、仮に足許の低金利(10年物1.0%)が一貫して継続しても、2019年度には、利払費は17兆円に達するとの結果となった。これは、足許の利払費の2.3倍、約10兆円増に相当する。加えて、その前提となる財政収支は、2019年度前後の時点で、年度当たり18兆円規模の増税ないしは歳出削減(社会保障費半減ないしは地方交付税全廃程度に相当)が断行できているという、極めて抑制的な財政運営を前提としたものである。このようにみると、「低金利が継続すれば、利払費の水準は低いまま」とはならないことがわかる。
- 以上の議論を踏まえると、従来の延長線上で、先行きもわが国の安定的な財政運営が保証されていると考えることは危険である。巨額の公債残高を抱え、かつ、調達年限が短期化しているわが国の場合、低い金利水準が今後少しでも長く持続するよう、市場の信認を得られる財政運営を行いつつ、時間をかけて政府債務残高の逓減を目指していくよりほかに途はない。そのためには、わが国全体として、財政状況に対する危機感を正面から認識することがまずもって必要である。
- 野田新内閣は、財政運営上の課題の解決を先送りすることなく、①震災からの復興、②財政再建、③成長戦略、の三つを並行して実現させることが求められている。その過程で、税制、社会保障制度、地方財政制度等の財政構造問題の抜本的な改革は不可欠であり、そのための検討をスピード感をもって進め、実行に移していくことが求められる。
- また、わが国が抱える財政問題のディスクローズの在り方に関しても、工夫の余地がある。従来のように、国債管理政策運営に関する計量的な分析結果に加え、諸外国の例も参考に、わが国が抱えている先行きの国債発行・財政運営のリスクに関する、よりわかりやすいシンプルな指標なども用いて、国民に対する説明を充実させることが望まれよう。