要約
- 昨年4月のギリシャ危機表面化以降、欧州の債務問題は鎮静化せず、むしろ一段と深刻化。
- PIIGS諸国の財政赤字拡大の根因は共通通貨ユーロの導入。すなわち、アイルランド、ギリシャ、スペイン、ポルトガル、イタリアは、ユーロ導入前よりも大幅な通貨高を余儀なくされ、対外競争力を喪失。一方、ギリシャ、アイルランド、スペインでは、為替リスクが消滅するなか、長期金利が名目成長率を大幅に下回る状況が常態化し、資産バブルが膨張。
- 共通通貨ユーロは、債務危機の深刻化も招来。PIIGS諸国では、金融政策の自由度がなく、通貨安を通じた景気下支えも封じられている状況下、厳しい緊縮財政により景気は大幅に悪化。結果として財政赤字は一段と拡大。加えて、欧州では、為替リスクの消滅により、域内クロスボーダー取引が活発化。独仏金融機関はギリシャをはじめとするPIIGS諸国の国債を大量に保有しており、PIIGS諸国の国債価格の値下がりが保有金融機関の資本を毀損。
- ユーロ圏各国は「2013年半ばまではギリシャのデフォルトを回避する」という先送り姿勢を堅持していたものの、もはや先送りは困難。すなわち、第2次ギリシャ支援で民間投資家に一部負担を要請した結果、金融システム不安が増大。加えて、債務不安がイタリアに飛び火したことにより、EFSFの資金規模が当初想定の4,400億ユーロでは不足する恐れ。ギリシャ、スペインなどでも社会不安が高まりつつあり、追加の緊縮は困難に。
- こうした状況下、金融危機を回避するためには、以下の抜本的な対策をパッケージとして打ち出す必要。
①ギリシャの財政赤字安定化に向けた債務の50%前後の削減
②金融システムへの悪影響を遮断するための資本増強
③PIIGS諸国の財政悪化に歯止めをかけるための景気支援 - PIIGS諸国への景気支援に当たっては、成長率を単純に底上げしても持続的な景気拡大・財政改善にはつながらない。すなわち、①景気回復を財政改善に結び付けるうえで、税・社会保障構造をより柔軟にしていく必要。加えて、②域内競争力回復に向け、賃金抑制と同時に高付加価値産業へのシフトが欠かせない。こうしたPIIGS諸国の自助努力に加え、③域外輸出の増加に向け、積極的な金融緩和等のユーロ安を促進する政策を打ち出す必要。さらに、④インフラ整備や国際優良企業の工場誘致など、産業基盤の強化に向け、ユーロ圏各国による財政面から支援が不可欠。
- ユーロ圏は、緩やかながらも財政統合に向けて前進していく以外に選択の余地はなく、今回の未曾有の危機を活用して、共通通貨ユーロという体制をより磐石にしていく必要。