要約
- ソーシャルファイナンスとは、金融的リターンとともに社会的リターンを追求する金融である。一般の金融では及ばない領域をカバーするという意味で補完的であり、その担い手も一般金融機関に比べて規模が小さい。それにもかかわらず欧米でソーシャルファイナンスが確固たる地位を築いているのは、金融を社会にあまねく行き渡らせることの重要性が広く認識されているためであろう。
- 現在、わが国でソーシャルファイナンスの主要な担い手となっているのは協同組織金融機関である。もっとも、利益の確保と健全性維持への要請が強まるもとで、そのソーシャルファイナンス機能は近年、低下している。そもそも多くの協同組織金融機関には、欧米のソーシャルファイナンスの担い手のように社会的課題を自ら解決していこうという積極性は希薄である。
- ソーシャルファイナンスの新しい担い手としてNPOバンクが出現しており、市民から集めた出資金を原資に、一般金融機関が提供しにくい社会的事業や社会的課題に低利で融資を行っている。その特徴としては、①個別の融資案件にきめ細かく対応する、②これまで貸し倒れがほとんど生じていない、③経営が必然的に高コストである、の3点が挙げられる。
- NPOバンクの活動はこれまでのところ限定的にとどまる。これは、ビジネスモデルがいまだ確立されていないことに加えて、独自の法的枠組みがないため、さまざまな法制度の制約を受けることによる。具体的には、①多くは任意組合であるため出資者が無限責任を負う、②金融商品取引法の適用除外を受けるために出資金に配当を支払うことができない、③貸金業に該当し、改正貸金業法の施行により新たな負担を強いられている、などである。
- このように、わが国でソーシャルファイナンスはいまだ本格的な普及に至っていないが、政策として積極的に推進する時期が来ている。わが国が抱える課題に取り組むに際してソーシャルファイナンスの活用が有用なためである。とりわけ以下の3点が期待される。
第1に、事業型NPOなどのソーシャルビジネスの重要性が高まるもとで、ソーシャルファイナンスを通じた金融面からの支援によってその発展を後押しすることができる。
第2に、東日本大震災からの復興において、公的支援と一般金融機関による融資の狭間にある資金ニーズの充当のために、ソーシャルファイナンスは大きな役割を果たすことができる。
第3に、改正貸金業法によって消費者金融の資金提供力が大幅に縮小しており、経済的弱者の困窮につながりかねない。彼らを支援するためにもソーシャルファイナンスが必要になっている。 - アメリカではCDFI(コミュニティ開発金融機関)がソーシャルファイナンスの主要な担い手となっている。CDFIが普及しているのは、アメリカ政府が積極的に財政支援するとともに、民間資金の流入を促す仕組みを導入したことに負うところが大きい。
- CDFIの経験を踏まえると、わが国でソーシャルファイナンスを本格普及させるためには、以下の3点が挙げられる。
第1に、政府がソーシャルファイナンスの必要性を認識し、政策として推進する意思を明確に示す必要がある。そのうえでソーシャルファイナンスの担い手を育成するための諸施策が求められる。
第2に、民間資金が自主的にソーシャルファイナンスに流れるための環境整備を行う必要がある。NPOバンクであれば認定制度を導入し、投資家が安心して出資できるようにする。また、個人だけでなく企業からの出資の可能性を探るべきである。
第3に、ソーシャルファイナンスの担い手が一般金融機関と協調融資を行う、NPOや中間支援組織などから借り手の紹介を受けるなど、多方面と連携しネットワークを築いていくことが重要であろう。