要約
- 震災後のわが国経済は急激に落ち込み。サプライチェーン寸断による鉱工業生産の減少と消費マインドの悪化が主因。もっとも、4月後半から持ち直しの動きが明確化。
- 今後の景気をみるうえでのポイントは、鉱工業生産、消費マインドの回復の度合いと、公共投資、住宅投資などの復興需要。
①鉱工業生産
自動車を中心に、工場の復旧は前倒しで進展しており、鉱工業生産は遅くとも年内には震災前水準に回復する見通し。新興国経済が堅調な成長を続けるなか、国内生産の拡大に伴い、輸出も増加トレンドに復帰する見通し。
②個人消費
消費マインドは緩やかに改善。加えて、企業の生産回復により、所得環境も総じて堅調さを維持。
先送りされた消費需要の顕在化や、耐久財などの復興需要も期待できるため、個人消費は増勢が明確化する見通し。
③政府支出
公共投資・政府消費は大幅増へ。補正予算編成の遅れにより後ろ倒しになる可能性はあるものの、被害状況を踏まえれば、今後3年間で5兆円の公共投資が必要になる可能性。
④住宅投資
土地整備に時間がかかるため、阪神・淡路大震災時より遅れるものの、2012年入り後から住宅の再建が徐々に盛り上がる見通し。 - 以上のような回復・復旧の動きが現れるため、夏場以降、わが国経済は高い成長が持続する見通し。もっとも、以下のような下振れ要因が強まれば、回復ペースが想定よりも下振れる可能性も。
①家計の所得・購買力の低下
復興財源の確保のため、家計部門に負担が高まる可能性。当面は、公務員給与の引き下げによる雇用者報酬の下振れ、子ども手当の縮減による可処分所得の押し下げが最大のリスク要因。
②資源価格の上昇
CPI上昇を通じて家計の購買力が低下するほか、コスト増により企業収益にも下振れ圧力。貿易収支も赤字基調が長期化の恐れ。
③電力不足
全国各地の原発が再稼働できなくなった場合、電力不足が全国規模の問題となる懸念大。企業活動
が制約を受けるほか、家計の消費行動にもマイナス作用。 - このような下振れリスクが大きく顕在化しなければ、わが国景気は、2011年7~9月期以降、高めの成長が続く「V字型」の回復へ。年度ベースの成長率は、2011年度はゼロにとどまるものの、2012年度は3%程度のプラス成長と予想。
総じてみれば、震災による景気下振れは大幅であったものの、短期的・一時的な落ち込みにとどまる見通し。ただし、中期的な財政リスク顕在化に対する警戒が一段と強まる状況に。