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Business & Economic Review 2011年7月号

【特集 グローバリゼーション下のわが国温暖化対策と 環境ビジネス】
世界における再生可能エネルギーおよび関連ビジネスの動向

2011年06月24日 岩崎薫里


要約

  1. わが国では、東日本大震災を契機に再生可能エネルギーへの関心が高まっている。わが国は先進国のなかで再生可能エネルギーの導入が遅れており、普及状況はOECD平均を大幅に下回る。これには政策要因が大きい。現状では再生可能エネルギーは市場競争力に乏しく、政策に支えられている。このため、政策の強弱が需要の強弱、ひいては普及率に大きく影響する。2000年代半ば以降、諸外国で普及促進に向けて政策が強化されるなかでわが国では逆に後退したことが、遅れの主因となっている。


  2. 海外では近年、EUに続いてアメリカ、さらには中国、インドなど途上国も加わり、再生可能エネルギーの導入機運が高まっている。その背景には、①気候変動対策、②エネルギーの安定確保、③新産業の育成、の三つの狙いがある。各国の普及促進策に後押しされて、再生可能エネルギーの発電量が急拡大するとともに関連ビジネスが成長し、投資資金も流入している。


  3. 主要国別にみると、まずドイツが、強力な固定価格買取制度(FIT)を梃子に再生可能エネルギーの導入を飛躍的に増やした。これによってFITへの評価が高まり、採用する国が相次いだ。もっとも、スペインはFITの制度設計を誤り、太陽光発電を優遇しすぎたため、太陽光バブルとその崩壊を経験した。一方、アメリカでは、州政府による普及促進策の拡大に加えて、連邦政府が金融危機後の景気対策のなかに普及促進策を織り込んだことから、再生可能エネルギーの導入が加速している。中国も最近になって再生可能エネルギーの導入を強力に推進し、2010年の発電容量は世界最大となった。


  4. 再生可能エネルギーのうち風力発電および太陽光発電は、公的支援に支えられているとの条件付きながら商用化が進んでいる。それとともに先進国で低価格の汎用品へのニーズが高まったことから、中国を中心に途上国メーカーが低価格品を武器に輸出攻勢をかけ、市場シェアを伸ばしている。一方、価格競争力で劣勢に立たされた先進国の一部のメーカーは、市場から退出したり生産拠点を途上国に移転したりすることを余儀なくされている。


  5. こうしたなか、アメリカでは多額の財政資金を注入しているにもかかわらず再生可能エネルギー関連ビジネスが自国で創出されないとして懸念が強まっている。懸念の矛先は中国に向かい、中国の風力発電設備メーカーへの補助金を巡りUSTRが中国政府をWTOに提訴する一方で、「バイアメリカン」の動きが再生可能エネルギー分野で生じている。


  6. もっともその一方で、これらとは別方向の動きもアメリカでみられる。主なものとして以下の4点が指摘できる。
    第1に、アメリカから海外に生産拠点が一方的にシフトしているわけではなく、海外メーカーによるアメリカ進出も同時に生じている。
    第2に、太陽光発電設備については輸入だけでなく輸出も活発に行われている。国際分業体制ができ上がっている証左であろう。
    第3に、風力発電設備について、従来は輸入製品への依存が高かったものの、需要の拡大が国内生産基盤の強化につながり、現在では国産品への依存のほうが高い。
    第4に、こうした動きに加えて、再生可能エネルギー関連のサービス分野で産業と雇用が自国内で
    創出されることから、トータルでみて自国経済への恩恵が大きい。


  7. 内外の動きを踏まえて再生可能エネルギーの普及促進において留意すべき点を整理すると、①普及には政策面での支援が不可欠である、②本格的に普及させようとすると総じて多額の費用を要する、③普及促進策は適切に設計されたものである必要がある、の3点が挙げられる。また、自国内で再生可能エネルギーへの需要が高まることが、関連ビジネスの育成にとって重要である。個別にみると競争に敗れて市場から退出する企業もあるものの、全体でみれば需要の拡大にしたがって自国での設備生産が増えるとともに、サービス分野でビジネスが拡大することが期待できる。


  8. わが国でも再生可能エネルギーの普及に本腰を入れることで、関連ビジネスを急速に盛り上げることが可能である。わが国は出遅れたとはいえ、市場シェアを巡るレースは始まったばかりであり、逆転のチャンスは十分にある。自国市場の拡大を足がかりに国際競争力を向上させ、再生可能エネルギー分野で世界をリードすることは、わが国経済の再生にもつながると期待される。
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