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Business & Economic Review 2011年7月号

【特集  グローバリゼーション下のわが国温暖化対策と環境ビジネス】
わが国温室効果ガスの排出の現状と今後の方向性

2011年06月24日 藤波匠


要約

  1. 2009年度のわが国温室効果ガスの排出量は、2008年度に引き続き大幅減少となった。2008~2009年度の排出削減は、環境省の説明にある景気の停滞、原子力発電の設備利用率向上のほか、素材産業から組み立て加工業への産業構造の転換、海外への生産拠点の流出、運輸部門における排出削減対策の効果などにより実現したものである。なかでも、産業構造の転換と生産拠点の海外流出は、今世紀に入り一貫してわが国排出量の抑制に貢献してきた。


  2. 2012年に目標年限が来る京都議定書については、福島第一原子力発電所のトラブルによる火力発電比率の上昇という排出量の押し上げ要因はあるものの、それでも2010年度までの削減が貯金となり、削減目標(90年比▲6%)は達成できる見込み。一方、ポスト京都の目標(2020年▲25%)については見通しにくくなったものの、産業構造の転換、生産の海外シフト、民生部門の削減努力により、京都議定書(90年比▲6%)から追加的な削減は可能。とくに、産業構造の転換や生産の海外シフトは、温暖化対策ではなく、純粋な経済活動の結果としてもたらされており、今後もこうした傾向は続くものと考えられる。


  3. 製造拠点の海外シフトの進展は、CO2の国内排出量削減につながるものの、一方で国内産業の空洞化を懸念する声も聞かれよう。しかし、国内産業の空洞化を回避するため、国内生産に固執しすぎれば、おのずとわが国製造業は国際的競争力を低下させることになる。さらに生産拠点の海外シフトによる排出削減には、国内排出量の海外への付回し、すなわちカーボンリーケージの側面もあり、先進国としての責務が問われる局面も出てこよう。したがって、海外シフトに伴って生ずる国内産業の空洞化とカーボンリーケージ双方に配慮した政策が必要となる。


  4. 国内産業の空洞化に対しては、わが国の国内産業構造を、省エネ型で付加価値の高いものに置き換えていくことが求められる。海外にシフトする製造業に置き換わる新たな産業や新しい技術を萌芽させるため、例えば省エネ関連技術や生産技術などの開発を積極的に支援し、世界の技術センターとなることなどが求められる。そのため、わが国が進むべき方向性を示せば、次の通り。
    ①高い削減目標を受け入れ、省エネ技術のトップランナーを維持し、技術開発を推進する
    ②海外からの高機能材の開発・生産を受託する
    ③海外への技術移転を通じ、ロイヤリティー収入や現地法人の収益拡大を目指す


  5. カーボンリーケージの問題を内部化するために、わが国企業の取引先や進出先の国々を温暖化防止の国際的な枠組みに取り込むことが望まれる。そのために必要な施策は次の通り。
    ①新たな枠組み作りや新興国参加を促すため、わが国は高い削減目標を設定する
    ②技術移転により生じる削減効果を、両国で折半するポスト京都の仕組みづくりを進める
    ③生産拠点のシフト先に対し、電力などの排出原単位の引き下げを支援する


  6. 2011年3月11日の震災以来、国内で震災復興や福島第一原子力発電所に注目が集まることはやむをえない。しかし、世界に目を転じれば、グローバリゼーションの進展や新興国の台頭、ポスト京都に向けた議論は着々と進展している。地球規模の課題である温暖化問題やわが国の成長戦略については、より広い視野を持って臨む必要があり、低炭素社会構築に向けた国際的なイニシアチブの復権を目指すべきである。
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