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Business & Economic Review 2011年4月号

【特集 成長するアジアと金融】
アジアにおけるクロスボーダーM&Aの動向

2011年03月25日 野村敦子


要約

  1. 2008年のリーマンショックに端を発する世界的金融危機は、発生源のアメリカやヨーロッパのみならず、アジアの経済や金融・資本市場にも大きな影響を与えた。各国の投資活動は停滞し、国境を跨ぐクロスボーダーM&Aは大きく落ち込むこととなった。しかし、いち早い経済回復とともに、アジアにおけるクロスボーダーM&Aもピーク時の水準に急速に戻している。また、アジアの投資相手国は、対内投資・対外投資ともに欧米が中心であったが、アジア域内における経済の相互依存関係の深化や金融協力の進展に伴い、域内各国間における取引の比重が徐々に増えつつある。


  2. アジアに対する資金流入の増大が見込まれるなか、その受け入れ先となる金融・資本市場の状況をみると、株式市場はここ数年で飛躍的な成長を遂げている。一方、中長期資金の運用・調達の場である債券市場は未だ整備途上である。このため、投機的な資金が株式市場や不動産市場に集中しやすい構造となっている。欧米に比べ市場規模の小さいアジア諸国において大量の資金流出入が発生すると、市場や価格が大きく変動し、バブルを生成・崩壊させる危険性をはらんでいる。そこでアジア各国では、①資本流出の緩和、②資本流入の規制、③為替介入といった対策を講じている。


  3. こうした状況下、中国や韓国ではインバウンド(対内)からアウトバウンド(対外)へとM&A戦略を移行させており、外貨準備の効率的な運用策として政府系投資ファンド(SWF:Sovereign Wealth Fund)による対外投資を活発化させている。

    ASEAN諸国は、それぞれの経済・政治状況によりM&Aの傾向が大きく異なるものの、概してアジ
    ア・太平洋におけるM&Aの割合が大きい。


  4. わが国も、円高を追い風にアウトバウンドのM&Aが活発化している。しかし、インバウンドのM&Aは依然として低調である。また、わが国のM&A市場のGDPに対する割合は、先進諸国ばかりでなくアジア諸国に比べても小さい。対象地域は、件数面ではアジアが増加しているものの、金額面では依然として北米が半分以上を占めている。

    一方、欧米のM&A市場はアジアに比べ落ち込みが激しく、現在は緩やかな回復の途上にある。金融危機前は欧州・北米におけるM&Aの比重が大きかったが、危機後はアジアや中南米、太平洋の割合が増加しつつある。なかでも、大手投資ファンドがアジア市場への進出ならびに投資活動を積極化させている。


  5. これまではアジア域外での欧米勢によるクロスボーダーM&Aの割合が大きかったが、今後はアジア域内でのM&Aの割合が高まると考えられる。一つには、世界の消費市場としての存在感が高まっているアジア市場への参入を目的として、橋頭堡を確保するためのアジア企業に対するM&A(インバウンド)の拡大である。もう一つにはアジアの経済成長に伴い、規模を拡大し資金力をつけたアジア企業による外国企業の買収やエネルギー・資源権益の獲得、すなわちアウトバウンドのM&Aの拡大である。

    今後、アジアを舞台にしたダイナミックなクロスボーダーM&Aの拡大が予想されるなか、わが国もM&Aの戦略的な活用をアウトバウンドとインバウンドの両面について推進していくことが期待される。
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