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Business & Economic Review 2011年4月号

【特集 成長するアジアと金融】
アジア債券市場の基盤構築に向けた取り組み-決済システムのクロスボーダー・リンケージの動向

2011年03月25日 野村敦子


要約

  1. 近年、アジアが北米やEUに並ぶ一大経済圏として台頭しつつあるなか、域内の経済成長や金融システムの安定化に向け、経済・金融協力の重要性が一段と高まっている。金融分野ではASEAN+3を中心として、アジアの金融・資本市場育成に向けた取り組み等が進められている。これらの結果、各国債券市場の整備が進められ一定の成果も生まれているものの、まだ各市場取引規模は比較的小さく、流動性に乏しいなど課題も多く残されている。これらの課題を解決する一つの方法として、域内のクロスボーダー取引を活発化させることにより、取引量の増加と流動性の向上を図ることが考えられる。


  2. クロスボーダー取引を活発化させるためには、コストやリスクの削減を図ることが必要であり、なかでも決済システムの整備は重要な課題である。しかしながら、決済システムの整備状況の違いに加えて、各国の経済・市場の発展度合いや法制度・ルール・市場慣行などが一様ではないため、域内決済システムの調和や共通決済システム構築を実現することは容易ではない。現在、ASEAN+3ではアジア債券市場フォーラムを組織し、市場ルールの標準化や規制の調整に向けて実態調査・分析等に取り組んでいる。


  3. アジアに先行する事例として、ヨーロッパの取り組みが参考になると考えられる。ヨーロッパでは、域内金融・資本市場の統合を目指し、共通決済システムの導入が図られている。現在、大口資金決済システムのTARGET 2が稼動しており、リテール資金決済システムのSEPA、証券決済システムのTARGET 2 Securitiesなどのプロジェクトが進められている。域内決済システムの統合により、①域内クロスボーダー取引のコスト削減、②決済リスクの削減を通じた金融取引の安全性の向上、③域内資金循環の活性化、などの効果があると考えられる。


  4. アジアにおいても、香港やシンガポールが国際金融センターとして、資金・証券取引のハブとなることを目指し、決済システムや証券取引所のクロスボーダー・リンケージを進めている。また、ヨーロッパ市場でクロスボーダーの証券決済を手がける国際証券決済機関が、アジアにおけるビジネス拡大・強化の観点から、アジア各国の証券決済機関とのリンケージやクロスボーダー決済にかかるパイロット・プロジェクト等に取り組んでいる。


  5. アジア域内の資金循環を円滑化・活発化させるうえで、決済システムの高度化は重要な課題である。そのためには、①各国決済システムのSTP(Straight Through Processing)化、②金融業務の標準化、③国際機関が定めるグローバル・スタンダードへの対応、等を推進することが求められる。民間の決済機関を中心とするこれらの取り組みを実効性のあるものとするためには、各国政府による支援が不可欠であり、クロスボーダー金融取引の推進ならびに決済システムの高度化に向けアジア各国政府が協力し、一体となって取り組むことについての明確なコンセンサスの形成、域内協力体制の構築が必要と考えられる。


  6. このような決済システムの高度化を進めるうえで、わが国の経験は有用な先行事例になると考えられ、わが国が協力可能なことも多い。具体的には、①各国における決済システム改革支援、②決済システム構築にかかるハード・ソフトのパッケージでの供与、③国際標準策定にかかるアジアの意見の集約・反映、④モデルとなるクロスボーダー決済システムの構築、⑤各国の活動基盤となる官民協働プラットフォーム構築支援、などでわが国の主導的な役割が期待される。
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