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Business & Economic Review 2011年3月号:日本総研シンポジウム(スウェーデン大使館後援)

【特集 スウェーデンの「改革」に学ぶ】
スウェーデン労働市場の特徴とわが国へのインプリケーション
雇用流動化を受け入れる労働組合と積極的労働政策の実情

2011年02月25日 山田久


要約

  1. 石油危機発生以降1980年代まで、スウェーデンは日本と並ぶ低失業国であり、80年代後半期に不動産バブルが発生し、90年代初めにその崩壊に直面したこともわが国と同様の経験を経ている。しかし、その後、スウェーデンと日本のパフォーマンスは興味深いコントラストをみせる。わが国は90年代前半期には成長率・雇用・財政の面でそれなりのパフォーマンスであったが、90年代後半以降は低成長・失業上昇・財政悪化に苦しんできた。一方、スウェーデンは90年代前半に激しい景気後退に直面し、財政の大幅悪化、失業率の急上昇を経験したが、90年代後半以降は成長力が回復し、2000年代には失業率低下、財政健全化を達成した。本稿の狙いは、こうした両国の違いの原因を労働市場の成り立ちの違いに求め、わが国が現下の閉塞状況を脱出するために求められる労働市場改革へのヒントを得ることにある。


  2. スウェーデンの労働市場の特徴は、①就労を促す社会的規範・社会保障制度、②高い労働組合の組織率を背景とした労使協約重視の労使関係、③労働移動を促進する様々な仕組みの存在、の三点に集約できる。これらの特徴のもとで、同国の労働組合は、企業や政府による再就職支援・職業訓練への取り組みを見返りに、余剰人員整理を受け入れるスタンスを示していることが特筆される。この結果として、スウェーデンでは雇用調整スピードが速く、産業を跨ぐ労働移動が活発であるという点で、わが国と好対照をみせている。つまり、90年代以降の両国経済パフォーマンスの違いは、産業構造転換につながる労働移動がどれだけ行われてきたかの違いに帰着する。スウェーデンでは経営不振企業・不採算事業の救済は行われないためバブル崩壊後に情勢は大幅に悪化したものの、産業構造転換が進むに伴って経済パフォーマンスは回復した。これに対し、わが国は雇用維持のために不採算事業の整理が遅々として進まず、産業構造転換が先送りされるなか混迷がますます深まっている。


  3. 90年代以降のスウェーデンでは、インフレターゲティング政策の導入が物価安定化に貢献したが、その前提としてマクロレベルでの賃金調整機能が回復されたことを指摘できる。加えて、流動的な労働市場が産業構造転換を支えて生産性向上の実現を可能にしてきたことも見落とせない。スウェーデンでの課題はインフレ率の抑制であり、現下のわが国の課題はデフレ脱却である点からすれば方向性は逆ではあるが、物価安定化に向けた政策ミックスの在り方という点で示唆深い。わが国では、雇用調整に対しては最終手段との社会的規範が存在するなか、産業構造転換が遅れ、労働生産性が低迷してきた。このため、そもそも景気回復時でも賃金引き上げ余地が少なかったうえ、「春闘」におけるマクロの賃金調整機能が低下するなか賃金引き下げによるコスト削減効果が産業構造転換の必要性を緩和させ、結果として労働生産性上昇の阻害要因になってきた。こうしてみれば、わが国にとっての優先課題は産業構造の転換であり、同時にマクロの賃金調整機能を回復させたうえで、物価安定に向けた金融政策運営ルールを確立するという手順を経ることで、デフレ脱却の展望がみえてくるであろう。


  4. スウェーデンは経済、財政面では良好なパフォーマンスを示しているが、実は雇用面では最悪期からすれば改善したとはいえ、80年代以前の低失業状態には戻ることはできていない。かつて低失業に貢献してきたとされる積極的労働市場政策の有効性も低下している。そうしたなか、注目されるのは、同国の労働市場政策においては個別施策のスクラップアンドビルドが頻繁になされ、近年では伝統的な短期間の職業訓練のウエートは低下し、カウンセリングを通じたジョブマッチングに重点が移っているほか、基礎力を含めた職業教育が重視されていることである。つまり、積極的労働市場政策は、早くから取り組んできたスウェーデンでも必ずしもうまくいっているわけではないという認識が必要であり、検証に基づいて政策メニューの改善に不断に努めてきている姿勢にこそ学びたい。わが国でもスウェーデンをはじめとした海外での経験を踏まえ、政策評価の枠組みを確立したうえで、積極的労働市場政策の拡充・改善に取り組んでいく必要がある。
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