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Business & Economic Review 2011年2月号

【特集 グリーン・グロース実現への道】
再生可能エネルギーと地域再生-地場産業としてのエネルギービジネスの可能性

2011年01月25日 藤波匠


要約

  1. 本稿では、再生可能エネルギーを核とした内発的産業を創造することによる、持続的な地方再生の方策について検討した。


  2. 地方では、人口や産業が流出し、衰退が顕在化している。これまで、景気低迷のたびに、公共事業が行われ、地方経済を下支えし、雇用を創出してきた。ところがそうした公共投資の効果は一過性に過ぎず、域内に富が蓄積されることはなく、持続的な地域の発展に結び付いたとはいいがたい。


  3. 今後地域経済の建て直しのためには、公共投資や大企業誘致にばかり依存することなく、内発的な産業の創造が不可欠である。とくに、地域の域内資源、例えばバイオマスや農業用水などを活用する再生可能エネルギーを生かした内発的な産業の振興が望まれる。なお、ここにいう内発的産業とは、地域資源を生かした再生可能エネルギービジネスはもちろん、こうしたエネルギーを活用した、より付加価値の高い農林業や製造業、サービス業を含む産業全体を指す。


  4. 内発的発展が必要であるという問題認識から、国は「緑の分権改革」を進めている。「緑の分権改革」では、それぞれの地域で生み出される食料・エネルギーを生かし、地域の自給力と創富力を高める地域主権型社会を目指すことで、人口流出に歯止めをかけ、各地域が成長する地域社会の構築が目標とされている。


  5. ただし、「緑の分権改革」で指摘される「地域の自給力」という発想には落とし穴もある。「自給=地産地消」と考え、単純に高コストで作った再生可能エネルギーを地産地消していては、地域における財やサービスの生産コストの押上げ圧力となるため、現状では経済の縮小均衡を招く恐れがある。


  6. 再生可能エネルギーの地産地消がメリットを生じるためには、再生可能エネルギーを系統電力や化石燃料よりも相対的に割安にすることが必要である。


  7. 現在導入が模索されている全量固定価格買い取り制度は、発電した電力のすべてが固定価格で買い取られることになり、投資する企業にとって事業の収支計画を立てやすくなるため、再生可能エネルギーの普及に貢献することが期待されている。ただし、全量固定買い取り制度では、民間の事業に官の差配が介入することになるため、適切な資源配分が損なわれる可能性がある。買い取り価格の設定に際しては、特定の再生可能エネルギーに優遇、不遇を生じさせない配慮が必要である。また、全量固定価格買い取り制度は、割高な電力を高い価格で買い支えているに過ぎず、域内で他の産業を活性化させる起爆剤としては、十分とはいえない。


  8. さらに一歩踏み込んで、電力や化石燃料に対し、排出される二酸化炭素量に比例する炭素税を導入し、電力や灯油の価格を現状よりも高めることができれば、全量固定価格買い取り制度よりも、各々の地域の判断で、各地の資源に適した再生可能エネルギーを導入することができよう。また、全量固定価格買い取り制度では対象外となる熱供給の普及も促進される。しかも、割安となる再生可能エネルギーを活用した地域経済の活性化が期待される。
    当面は、全量固定価格買い取り制度で事業者を支える取り組みが必要であるが、中長期的には炭素税に移行し、各地域の模索のなかで、地域に適した再生可能エネルギー事業の在り方とそのエネルギーを活用した地域再生の方向性を見出すことが望まれる。


  9. 同時に、小水力普及に向けた規制緩和を進め、再生可能エネルギー導入の促進に向けた補助金も地方自治体主導に切り替えていく必要がある。さらに、新たなビジネスの創造に向け、地域からの投資を促すことも望まれる。市民からの投資や企業連携など、地域の社会経済状況に応じた多様な出資形態も模索すべきである。


  10. 炭素税や規制緩和など一連の取り組みにより、地方の資源を活用した再生可能エネルギーの価格が系統電力や灯油よりも割安となれば、再生可能エネルギービジネスへの域内外からの投資の拡大が見込まれるとともに、安価なエネルギーに着目した起業や事業所・企業の進出が進み、雇用と移輸出が拡大するなど、地域経済の持続性向上が期待される。
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