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Business & Economic Review 2011年2月号

【特集 グリーン・グロース実現への道】
排出量取引制度のこれまでの実績と評価

2011年01月25日 岩崎薫里


要約

  1. 排出量取引制度は温室効果ガスの排出削減の切り札として注目され、過去数年間で急速に拡大したものの、ここにきて逆風に晒されている。


  2. まず、京都議定書に基づく排出量取引制度の中核であるCDMは、途上国を排出削減への取り組みに組み込むという大きな成果を果たす一方で、取引がすでに頭打ちに転じている。これは、京都議定書後の国際枠組みが合意できていないことからCDMへの不透明感が増していることに加えて、プロジェクトの承認手続きが長期化し、クレジットの発行リスクが高まっているためである。さらに、「追加性」が達成されていないプロジェクトや、途上国の持続可能な発展に十分貢献していないプロジェクトが散見されるなど、CDMの存在意義にかかわる問題が生じている。


  3. 次に、EUで実施されている排出量取引制度であるEU─ETSについてみると、取引規模が順調に拡大を続けているうえ、排出量の目標もこれまでのところクリアしている。しかし、これには企業の排出削減努力の成果というよりも、目標が低く設定され各種の優遇措置も導入されるなど制度設計上の事情、および景気低迷による排出量の抑制、という二つの要因のほうが大きい。


  4. EU─ETSと同様のキャップ&トレード型の排出量取引制度は、一時期は他の先進国にも普及する勢いをみせていたものの、アメリカでの導入が頓挫したのに続いて、日本およびオーストラリアでも導入機運が後退している。この背景には、キャップ&トレード制度に対する産業界の不信感がもともと根強いところに景気低迷が加わり不信感が増幅されたことや、金融危機を契機に排出量取引制度の複雑さに対する警戒心が強まったことが指摘できる。


  5. 排出量取引制度は市場メカニズムを利用して排出削減を効率的に進めるスキームである。実際に、制度が導入され温室効果ガスの排出に価格が付くと、対象国・企業は温室効果ガスの排出をコストとして意識せざるを得なくなった。また、制度の導入によって多様な関連ビジネスが出現し、それらの営利目的での行動が結果として排出削減に貢献している。もっともその一方で、市場メカニズムに依存する制度であるからこその限界も露呈した。


  6. それらを踏まえると、排出量取引制度という、市場メカニズムに依存した制度には達成できることとできないことがある点を改めて認識し、達成できることについてはその効果を最大限実現するために努力する一方、達成できないことについては別の制度を導入する必要がある。排出量取引制度は排出削減に不可欠というわけではなく、導入しないという選択肢もある。しかし、導入するからには制度を育てていくことが求められる。
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