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Business & Economic Review 2010年12月号

【特集 成長戦略とグローバル化】
わが国農業の再生に向けて-大量離農を好機と捉えたコメ政策の転換を

2010年11月25日 藤波匠


要約

  1. 販売農家の85%が携わるコメ生産の構造問題の解決は、FTAの締結を早めてわが国の貿易立国としての基盤を強化するのみならず、衰退に向かいつつあるわが国米作を再生させ、農業を成長産業化するためにも、きわめて重要な課題である。

  2. コメ生産は、長期にわたる価格維持政策下、「作付面積規模の小さな兼業農家」が大半を占める業界構造のもとで、生産性の低い状態が存置されてきた。しかしながら、高齢化の進展により大量離農の可能性があり、しかも地方の経済活力低下による雇用吸収力の低迷から生じる兼業先不足により、今後兼業体制の維持が難しくなって行くことが予想される。作付面積規模の小さな農家の大量離農は、わが国農業の存亡の危機である半面、これまで極めて緩やかにしか進まなかった農地集約を進め、農業の生産性を高めるための絶好の機会が到来していると考えることができる。

  3. 近年、作付面積規模が大きい農家では、生産コストの低下が著しい。しかも、今後国際市場におけるコメの価格は上昇が予想される。戸別所得補償制度の助けもあり、大規模な農家によるコメの生産コストは、10年以内に国際価格と同水準となり、国際競争力を備える可能性がある。
    一方、コメの需要と供給のギャップは、拡大傾向にある。一人当たりの需要の減少と生産量の維持が続けば、2020年の需給ギャップは240万トンに及ぶ。極端なコメ余りを生じさせないために、需要水準維持に向けた政策導入が必要となる。

  4. 大量離農を好機と捉える攻守バランスの取れた農政の在り方を、①農地集約に向けた政策パッケージ、②需給均衡政策、に分けて示すと以下の通り。
    ①農地集約に向けた政策パッケージ
    戸別所得補償制度を0.5ha以上の作付面積の農家に限定した定額直接支払いにするとともに、農地集約に向け、農地借り受け支援金制度を創設。とくに、借り手として資本力のある法人の参入を支援し、小規模な米作農家から農地を借り受け、より収益性の高い施設園芸などへの転作を促す。
    生産性向上により、2020年ごろには稲の作付面積0.5~1haの農家の生産コストは25万円/トン程度にまで引き下げられることが見込まれ、現行341円/kgの輸入関税は段階的に150円/kg程度にまで低減させることが可能となる。
    ②需給均衡に向けた政策
    国内において極端なコメの需給ギャップを生じさせないためには、需要量確保に向けた消費の維持・拡大と輸出戦略は不可欠。消費の拡大には、消費促進キャンペーンだけではなく、生産性向上による消費者米価の引き下げが重要。輸出戦略には、需要の増大が見込まれる中国などのニーズを把握するマーケットリサーチとブランディング、および日本食輸出を先導役とする日本産米への需要喚起策が求められる。

  5. 専業でも一定の収入が得られるわが国農業の体質強化と、農地の流動性改善による農地取得の容易化は、産業としての農業の持続性向上に不可欠であるとともに、地方再生の面からの意義も大きい。個々の農家の生産性を高め、食える農家の育成に注力することが、雇用機会の少ない地方における地域再生に向けた第一歩となる。
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