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Business & Economic Review 2010年12月号

【特集 成長戦略とグローバル化】
成長戦略としての「人材開国」政策

2010年11月25日 山田久


要約

  1. 国内労働力が減少に向かい、海外事業の重要度が飛躍的に高まる今後の日本経済・日本企業の持続的成長にとって、「人材開国」により優秀な外国人の力を取り込むことは不可欠の課題であり、成長戦略の最重要テーマの一つに位置付けられる。本稿では、わが国の人材グローバル化が遅れている要因を分析したうえで、成長戦略としての「人材開国」政策の在り方を考える。

  2. 2008年の世界経済危機を経て、「まず自国があって海外事業をどう展開するか」という発想に基づいたものから、「グローバル市場から着想し、そのなかで自国をどう位置付けるか」という発想への転換が求められている。しかし、日本企業にとっての海外現地法人は、「出先機関」として位置付けられている面がなお色濃く残存しているのが実情である。これは日本国内の人材グローバル化の遅れに原因があり、国内本社がグローバルに通用する業務手順やルールの構築に取り組み、外国人に本社経営陣登用への途を開くことが問題解決に必要となる。日本企業が「内なる国際化」に取り組むことで、国内優先のドメスティック企業から、内外一体で捉えるグローバル企業として自己認識を変えることが求められている。

  3. 現行のわが国における外国人受入れの方針は、専門的・技術的労働者は可能な限り受け入れる一方、それ以外のいわゆる単純労働者については慎重に対処するというものである。しかし、現実には専門的・技術的労働者の受入れは余り進まず、むしろ単純労働者が大幅に増加したのが実態である。高度外国人の受入れの遅れは、入国管理制度上の問題よりも、①国内本社グローバル化の遅れ、②大学国際化の遅れ、③外国人を受け入れる都市環境整備の遅れ、といった点に起因するものと考えられる。

  4. 今後の環境変化の潮流からすれば、日本経済・日本企業のマクロ・ミクロ両面での人材グローバル化は不可避の課題である。もっとも、日本人にとって国際化(異文化との接触)の経験量の絶対的な不足という現実を踏まえれば、表層的・急進的な取り組みはかえって反動を生むリスクがあり、持続的かつ地に足のついた「人材開国」を進めることが肝要といえる。まずは従業員の海外派遣の積極化、海外留学経験のある若者の増員等により、グローバル化を「体験」する日本人を増やすことから始める必要がある。同時に「国内本社人材のグローバル化」「大学の国際化」「外国人に魅力ある都市づくり」により、本社・大学・都市の三つの場における内外人材交流を推進することが、人材開国政策の要諦である。

  5. 近年、企業活動のグローバル化が進展するに伴い、世界各地に分散した事業を統合する高度な本社機能が不可欠になり、それを支える金融サービスやプロフェッショナルな事業所サービスが集積した「グローバルシティー」が成長している。この背景には、国民経済という経済単位が衰退し、地域単位でのグローバル化の度合いが当該地域住民の生活水準を決めるようになるという、「グローバルな地域間競争」の構図が生まれているとの事情がある。そうした新たな構図のもと、今後、グローバルシティーをいくつ作れるかが国の成長力を決める重要ファクターになるといっても過言ではない。その意味で、本社・大学・都市における内外人材交流の推進は、グローバルシティー建設につながるものである点で、成長戦略の中核に位置付けられるべき施策といえる。
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