Business & Economic Review 2010年10月号
【特集 アメリカの中間選挙以降の政策課題】
アメリカにおける中堅・中小銀行の経営破綻と商業用不動産融資の不良債権問題
2010年09月24日 岩崎薫里
要約
- アメリカで銀行の経営破綻が相次いでいる。破綻件数は2009年の140件に続き、2010年も7月時点ですでに100件を超えた。破綻しているのは主に中堅・中小行であり、ほとんどのケースで商業用不動産融資の焦げ付きが急増したことを原因としている。
- 商業用不動産融資は大手行も手がけており、金額においては大手行のほうが大きい。しかしながら、大手行では収益源や資産ポートフォリオが多様であることから、商業用不動産融資の分野で不良債権が増加していても、これまでのところ収益全体への影響力は相対的に軽微にとどまっている。これに対して、中堅・中小行は同融資への集中度合いが高いため、不良債権の増加で収益の大幅な悪化に見舞われている。
- 中堅・中小行が商業用不動産融資に傾斜したのは、2000年代の不動産ブームに乗ったという短期的な要因が大きい。しかしそれにとどまらず、大手行の進出によって従来の得意分野であったリテール融資業務が侵食され、それに代わる収益確保策として商業用不動産融資に注力したという、構造的な要因も無視できない。
- 中堅・中小行は商業用不動産融資の資金を調達するために、ブローカー預金を始めとするノンコア・ファンディングを積極的に利用した。それによって、店頭での預金の受け入れに比べて大量の資金を容易に確保できたことが、同融資への傾斜を促した側面がある。また、不動産市況が悪化に転じ融資の焦げ付きが増えると、ノンコア・ファンディングを通じた資金調達が困難になり、経営状況の悪化に拍車をかけることとなった。
- 米銀全体に占める中堅・中小行の資産規模のシェアが小さいことから、銀行破綻が中堅・中小行にとどまっている限りは、金融システム全体および実体経済への悪影響は限定的にとどまる。もっとも、不動産市況の早期回復が期待薄な一方で、不動産ブーム時に実行された融資の満期が今後数年間で集中的に到来するとみられている。満期が到来しても借り換えが受けられない場合には、借り手企業は債務不履行に陥り、銀行の不良債権は一段と増加することになる。そのペースが予想以上に急激なものとなる可能性も否定できず、そうなると経営破綻が大手行にまで広がり、最悪の場合、金融システムと実体経済の悪化の負の連鎖が始動するリスクがあることに留意する必要がある。