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Business & Economic Review 2010年7月号

【特集 京都議定書削減目標と環境ビジネス】
京都議定書削減目標の達成可能性と中期目標の方向性

2010年06月25日 藤波匠


要約

  1. 2008年度のわが国の温室効果ガス排出量は前年度比6.2%減と、過去最大の減少を記録した。一般には、その要因をリーマンショック以降の急激な景気悪化の影響に求める声が大きいが、同時に省エネや二酸化炭素の排出削減努力が、徐々に効果を見せ始めていることも見逃すことはできない。2004年以降、エネルギー起源の二酸化炭素排出原単位は、2.3%/年で改善しており、これはオイルショック期の▲3.5%/年に次ぐものである。


  2. 排出原単位の改善要因は、①製造業における産業構造の転換、②旅客部門における省エネ、モーダルシフト、移動距離の減少、③物流における省エネ効果、による。
    一方、家庭部門や業務部門では、省エネは進んでいるものの、電力の火力発電比率上昇により、二酸化炭素の排出抑制には結び付いていない。


  3. 史上最高の排出量を記録した2007年度には、京都議定書の目標達成が危ぶまれたが、皮肉にも2008年以降の景気悪化による排出量急減によって、光明が見えてきた。京都議定書の約束期間である2008~2012年の平均排出量は、基準年である1990年排出量と同水準にまで押さえ込むことが可能となる見込みである。目標達成に向けての不足分も、2004年度以降に達成している▲2.3%/年の排出原単位の改善を続けることなどで対応可能である。


  4. しかし、2020年の中期目標として民主党が掲げる90年比25%削減(真水は15%)を達成するためには、実質経済成長率を+1.3%としても、原単位を▲2.7%/年で改善し続けることが必要で、これまで以上の取り組み方が不可欠となる。まして、民主党の成長戦略にある成長率2.0%を達成すれば、オイルショック期と同等の取り組みや社会的影響を覚悟しなければならない。


  5. 2020年に90年比▲25%を達成するために、今後とくに重要となる政策の方向性を具体的に示せば下記の通りである。
    ①炭素制約下での成長戦略の根幹は、二酸化炭素排出原単位が低く、付加価値額の高い産業を機軸とした産業構造へのシフト。
    ②中長期的に調達コストの上昇が予想され、しかも当面の目標達成のためだけに排出枠を調達しているに過ぎないCDMの活用は、あくまで「補足的」とする。
    ③モーダルシフトの推進。とくに、思いのほか進んでいない物流部門のモーダルシフトについては、規制緩和などによりトラック輸送からのシフトを促す。
    ④電力は、二酸化炭素排出量あたりの価格が安く、安易な依存度の上昇は二酸化炭素排出量の押上げ要因となることや、原子力発電所の設置が計画通り進みにくいことを考えれば、電力を中心としつつも都市ガス、LPGをバランスよく活用することに配慮すべき。


  6. わが国が、世界最高水準の削減目標を達成するためには、あらゆる経済・財政政策を、二酸化炭素排出量への影響と関連付けて立案する必要がある。しかしながら民主党は、成長戦略と温室効果ガス削減の中期目標を独立に議論し、またモーダルシフトを反転させる高速道路料金引き下げを試行するなど、いまだその方向性が定まっているとはいえない。
    また、環境対応車普及促進事業に代表される補助金依存の温暖化対策は、財政への負担が大きく、持続性に乏しい。「気候変動交渉に関する日米共同メッセージ」にもとづく2050年8割削減という長期目標まで見通せば、炭素税のような持続性の高い施策が求められる。


  7. わが国成長戦略は、もはや炭素制約と切り離して考えることができず、成長と排出抑制の両立が図られたものでなければならない。同時に、今後わが国がどのような産業に依って立つのかを明示する産業構造への言及は避けられない。持続的な成長のためには、より排出原単位が低く、より生産性が高い産業構造へと転換を図り、そうした産業により生み出された富を内需拡大につなげていくことが必要である。
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