コンサルティングサービス
経営コラム
経済・政策レポート
会社情報

経済・政策レポート

Business & Economic Review 2010年3月号

【特集1 農業を核とする地域再生のビジョン】
農業は地域再生の核となりうるか-「総合食・農産業=生活圏」の構想

2010年02月25日 山田久佐藤浩介


要約

  1. 1980年代までわが国の地方経済は、①公共事業・交付税による所得移転、および、②輸出型製造業の工場誘致、という二つの手法によって支えられてきた。しかし、90年代末以降、この仕組みが機能しないことが明らかになっており、地域特性・独自資源を再認識し、これを活かした内発的・自立的な地域再生のエンジンを創出することが求められている。

  2. 本稿では、その有力な選択肢として、地域の有力な独自資源である農業を中心とした食産業に注目する。なぜならば、製造業基盤の弱い地域ほど、農業および食品工業の基盤がしっかりしている傾向が窺われるからである。さらに、①アジアを中心とした新興国に豊かな消費市場が成長していること、②「安心・安全」「環境」「スローライフ」といった「持続可能な経済社会」へ向けた世の中の関心が強まるなか、品質にこだわり、伝統的に自然との調和を考えてきた日本の農産物に対するニーズが高まっていること、③国際的な食糧需給の逼迫が輸入品を国産品で代替する方向に作用すること、などの環境変化を踏まえると、農業・食産業に新たな可能性が広がっている。

  3. 確かに農業単体では全産業に占める付加価値シェアは小さいが、食品加工や外食、食品流通、資材供給など関連産業を含めれば全国平均で1割に達する。都道府県別にみると2割近いところも存在し、地域によっては基幹産業の一つになりうる。関連産業を含めた「総合食・農産業圏」の形成により、今後2020年までに、期待される市場拡大効果は6~11兆円、雇用創出効果は38万~77万人と試算される。

  4. さらに、農業が地方再生に果たす役割は、基幹産業の一つを提供するにとどまらない。農業の持つ多面的機能に着目すれば、「総合食・農産業圏」は雇用を生むと同時に、農業の持つ環境保全機能が良好な住環境を整備することで人口を呼び込む効果が期待できる。この結果、職住融合型の産業圏と生活圏が一体となった「総合食・農産業=生活圏」を構想することができよう。

  5. 地域再生の一つの核として「総合食・農産業=生活圏」を形成するには、現行行政システムが様々な面でネックになっている。まず、全国画一的な政策展開や縦割り行政システムの弊害が、農業の持つ地域特性を十分に活かせず、既存農業の枠を超えた異業種融合による新しい産業創造にとって足枷になってきた。
    生産調整(減反政策)による全国画一的な価格支持政策は、農地規制の歪みもあって農地の集約化を妨げ、やる気のある農家の規模拡大の足枷となり、生産性低迷をもたらしてきた。さらに、農業分野の市場開放の議論が進まずFTA交渉のネックとなっていることの悪影響も見逃せない。それは、工業部門のみならず、今後期待される食・農産業の輸出の足枷になる恐れがある。
    農業保護の基本手法を価格支持から直接支払に転換すると同時に、大胆な権限・財源の移譲により、地域主導で政策分野横断的に思い切った施策ができるようにする必要性がある。地方分権・地域主権こそが農業を軸とする地域再生の条件といえる。
経済・政策レポート
経済・政策レポート一覧

テーマ別

経済分析・政策提言

景気・相場展望

論文

スペシャルコラム

YouTube

調査部X(旧Twitter)

経済・政策情報
メールマガジン

レポートに関する
お問い合わせ