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Business & Economic Review 2010年2月号

【特集 世界的危機後の金融】
カーボン・ファイナンスの概要と最近の動向

2010年01月25日 岩崎薫里


要約

  1. カーボン・ファイナンス(炭素金融)は、温室効果ガスの排出削減に焦点を当てた環境金融の一分野であり、排出権取引を中心とする、排出削減にかかわる金融を指す。わが国ではカーボン・ファイナンスおよびカーボン・ファイナンスの場であるカーボン・マーケットという言葉自体、一般的にはいまだ馴染みが薄いものの、気候変動対策の一層の推進に向けてキャップ&トレード型の排出権取引制度が導入されると見込まれるなか、今後大きく成長する可能性が高い。
  2. 世界最大の排出権取引制度はEU-ETS(EU排出権取引制度)であり、同制度を擁するEUがカーボン・ファイナンスをリードしてきた。とりわけロンドンがイギリス政府の後押しもあってカーボン・ファイナンスの集積地に成長し、世界の排出権取引のハブとなっている。EU-ETSが導入された2005年当初は、排出削減義務を負った企業による実需取引が中心であったものの、その後、金融機関やファンドなど、排出削減義務を負わないプレイヤーが増加するとともに、利益確保やリスクヘッジを目的とした取引が増え、取引手法も複雑化していった。取引される排出権は現在では現物のほか先物、オプション、スワップなどのデリバティブ商品も含まれており、一般的なコモディティの取引と変わらなくなっている。それらの結果、カーボン・マーケットでの取引が急増し、市場の流動性が高まった。
  3. 金融危機はカーボン・マーケットにも甚大な影響を与え、排出権価格の大幅な下落、大手金融機関によるカーボン・ファイナンス業務の縮小・撤退などを招来した。しかし、危機が沈静化したことに加えて、世界中で打ち出されたグリーン・ニューディール政策への期待、さらにはアメリカで連邦レベルのキャップ&トレードが導入される見通しが強まったことなどから、カーボン・マーケットにも持ち直しの兆しがみられる。
  4. わが国では今後、キャップ&トレードの導入に向けて議論が本格化すると見込まれる。その際に争点になり得るのが、以下の二つの懸念である。
     第1に、アメリカに続いてわが国もキャップ&トレードを導入すれば市場が一挙に拡大し、新たなバブルを引き起こすのではないかとの懸念である。たしかに最近の排出削減ブームにはバブルにつながりかねない要素が多く含まれている。しかし、過去のバブルと大きく違うのは、カーボン・ファイナンスが急成長しているとはいえ、絶対水準でみた市場規模が未だ小さい点である。そのうえ、ポスト2012年が展望できないことからカーボン・マーケットの先行きに対する不透明感が強く、市場参加者は一定の抑制を働かせている。こうしたことから、当面はカーボン・バブルが生成される可能性は小さいと判断される。
     第2に、そもそも気候変動問題の解決を市場にゆだねてよいのかという懸念である。排出権取引は市場メカニズムを活用しながら排出削減を低コストで効率よく実現しようというスキームである。その一方で、排出権取引は排出削減を達成することを目的としているにもかかわらず、実際にはこの目的に必ずしも沿わない動きが一部でみられる。市場メカニズムが円滑に機能しつつ、排出削減が達成されるためのルールを作っていくことが重要になる。
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