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【論文】
わが国の外国為替市場介入・外貨準備政策の問題点

1996年05月25日 調査部 河村小百合


要約

1995年春先の急激な円高ドル安の進展は、未だに記憶に新しい。

本稿では、円ドル相場のこれ までの足取りや変動相場制の抱える問題点を踏まえた上で、わが国通貨当局の外国為替市場介入政策による為替相場変動への対応に焦点を絞り、その(1)仕組み、(2)会計上の損益、(3)実際の相場への影響という意味での効果、(4)結果としての外貨準備の積み上がり、の観点から検討する。

73年の変動相場制移行後の円ドル相場は、総じてみれば円高の歴史であった。

購買力平価との 対比でみると、円ドル相場の実勢レートが購買力平価からとりわけ大きく円高ドル安方向に乖離した時期は、日米間の経常収支不均衡が拡大した時期と重なっている。

今日までの20年余りの経験から明らかになった、変動相場制の本質的な特徴・問題点としては、(1)為替レートの大幅な変動、(2)金融政策運営上の独立性の確保の困難さ、(3)基軸通貨国アメリカに政策運営上の規律が課されにくいこと、(4)為替相場の安定維持のために各国にかかる負担が非対称的であること、などを指摘できる。

このうち負担の非対称性の問題について、外国為替市場介 入額の観点からみると、わが国の介入額(推定)は93年はアメリカの17.0倍、94年は8.3倍、95年は17.3倍にも上り、日米間に顕著な非対称性が存在することがわかる。

わが国においては、国の特別会計として経理される「外国為替資金」により外国為替市場介入が実施されている。

その運営権限は大蔵大臣に属し、実際の運営は日銀に委託される形となっている。

「外国為替資金特別会計」上においては、外貨建て資産の運用益と介入用円資金の調達コストの差を主として反映する形で利益が計上されているが、その実質的な会計上の損益を把握するためには、(1)介入の結果として積み上がっている外貨建て資産の円建てベースでの評価損の累積、および(2)現行円資金調達方式の特殊性に起因する、日銀や資金運用部資金などの為券の保有主体に「得べかりし利益の逸失」の形でかかるコストをも勘案することが必要であると考えられる。

変動相場制移行後95年度までの累積としての会計上の損益を考えると、(1)までを含めたベースでは、2兆8千億円余りのプラス、すなわち利益が得られた形となっているが、(2)までを含めると、同期間の累積としての損益は6千億円余りのマイナスとなり、介入の実施により会計上の損失が発生していると考えることができる。

次に介入の効果としては、「シグナル効果」に関しては肯定的な評価が固まりつつあるものの、「ポートフォリオ効果」の観点では介入は実質的 に無効であるとの理解が一般的である。 こうした点を勘案すると、わが国通貨当局が従来実施してきた諸外国に比しきわめて多額の介入 が果たしてその金額に比例する効果を有していたかという点には議論の余地があると言えよう。

また、巨額の介入の結果、わが国は現時点で他国を圧倒 する額の外貨準備を保有するに至っているが、為替変動リスクのある外貨建て資産を増加させ続けることには問題があると考えられる。

また、為券の定率公募・残額(実際上はほぼ全額)日銀き受けという現行の円資金調達システムは、資金使途こそ国債とは異なるものの、インフレの助長につながりかねない点では中央銀行による国債引き受けの場合と何ら異ならず、大きな問題と言えよう。

わが国においては従来、外国為替市場介入・外貨準備政策運営に関して実際の介入額などの必要な情報が開示されておらず、政策運営に関するオープンな議論は殆どなされていなかったの が事実である。

しかしながら、「外国為替資金特別会計」の現行の会計手法には、その実質的な損益が計上される形になっていないという意味で大きな問題があると考えられるほか、実際の相場への影響という意味での介入の効果、介入の実施と風一体をなす外貨準備政策のあり方、現行の「外国為替資金」による介入の仕組み自体の当否まで含めて、今後は、当局が必要な情報を国民に開示した上で、公の場で議論を深め、それを政策運営に反映させる必要があると考えられる。

昨年の阪神・淡路大震災が戦後最悪の地震災害となった理由としては、

・ 現地情報の収集や各組織間の連絡の悪さによる初動体制の不備

・ 被災現場での救助活動体制や救助手段の不備

の2点が各方面から指摘されている。瓦礫に埋もれた人を捜す有効な手段もなかった。この大震災を受けて、中央防災会議では24年ぶりに国の「防災基本計画」を改定した。また、関係官庁や自治体でも、ハイテクノロジーを用いた情報の収集・連絡体制の強化、出動体制の迅速化、地域防災拠点の整備などを推進している。しかし、縦割り組織に依拠する点と線で結ばれた防災システムは、いざというときにはどうしても、組織的、時間的、空間的な間隙が生ずる。また、これらの計画では、住民の自助の必要性を明記しているものの、被災者の避難や人命救助のための効果的な手段・方法に関する記述はほとんど見られない。 先の大震災では、被災地の人々が自主的に協力し、近所の人々の所在確認、瓦礫に埋まった人の救助、消火活動などを真っ先に行い、行政の初動体制の遅れを部分的とはいえカバーすることができた。この点から、防災システムの間隙を埋め、面としての地域防災を進めるためには、

・ コミュニティ単位で活用できる救助・避難支援ツールの整備による対応迫ヘの強化

・ 現在整備が進みつつある防災システムとコミュニティとの有機的な連携

・ 人を単位として、局地から広域エリアまでをカバーする情報の受発信と広域的連携

によって、人、コミュニティ、行政機関・防災組織が一つの社会システムとして機狽キるための仕組みをつくることが必要である。以上のような観点から、人命を第一とした地域防災を実現する方策として次の2つを提案する。これらは国や自治体等の防災施策との連動を前提としており、早急な実現を求めたい。
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